第153幕
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「わぁ……美味しそう!」
「ケーキ、切り分けましょうか?」
『何から何まで悪いな、山崎』
「気にしないでくださいよ。いつも副長補佐には助けてもらってますし」
屯所の玄関から海の部屋へと移動し、海が朔夜と自分の隊服を衣紋掛けに掛けている間に山崎が食堂から取り皿とフォークを持ってきていた。
ケーキの箱を開けて中を見た朔夜が目を輝かせて歓声をあげる。そんな朔夜を山崎と海は微笑ましそうに見遣る。
『夕飯前だから食いすぎんなよ?』
「うん!山崎さん、早く早く!」
ケーキを取り出して包丁を差し入れる山崎を急かす朔夜。楽しげにケーキを切り分ける二人の声を聞きながら海は机の上に置いてあった書類に目を通す。
先程捕まえた攘夷浪士の報告が書かれた書類。どうやら近々、数人の攘夷浪士たちが爆破テロを企てていたらしい。土方の事情聴取によって判明した計画。
その計画阻止のためにまた駆り出される事になるだろうなと海は一人肩を落とした。
「兄さん!」
『ん?あぁ……切れたのか』
「ほら、そんな難しい顔してないでくださいよ!」
切り分けられたケーキが海の前へと置かれる。朔夜が差し出すフォークを受け取り、書類を畳の上へと置いた。
「あっ、僕まだやることがあるから失礼しますね」
「え、山崎さんは食べていかないの?」
「そのケーキは二人で食べてください。副長補佐が朔夜くんの為に選んだケーキなんだから」
『山崎!おまっ!』
にこにこ微笑みながら山崎は朔夜に手を振って部屋を出ていく。朔夜はちらりと海の顔を伺うように見た。
「兄さん、さっきの本当?」
『……今日はクリスマスだろ。たまにはいいかと思ったんだよ』
「そっか。うん、ありがとう」
素っ気なく返す海に朔夜は嬉しそうに笑ってケーキへとフォークを刺す。一口食べれば溢れんばかりの笑顔を浮かべる朔夜。
『クリスマスプレゼント、何がいい』
「へ?」
『見回りの時見てただろ。気づいてないとでも思ってたのかよ』
「バレてた……?」
『バレバレだわ。そんな高いもんは買えねぇけど、ある程度なら』
「ううん。何もいらない」
ケーキを食べる手を止めて朔夜は頭を横に振る。
「僕、兄さんとこうやって毎日会えればいいよ。いっぱいお話して、いっぱい笑って……でもたまに喧嘩したりして、普通の兄弟みたいになりたい」
海を真っ直ぐ見て言った朔夜に海は虚を突かれる。
『そんなんで……いいのかよ』
「そんなんじゃないよ。僕にとっては大きいことだから。僕は兄さんの弟でいたい」
そんな朔夜の強い思いに海は何も言えず黙りこくった。
朔夜が一切れ目のケーキを食べ終えた後、漸く海が口を開き朔夜に問いかける。
その言葉に朔夜は驚きながらも嬉しそうに笑った。
その翌日、朔夜は西ノ宮の姓を抜けて桜樹の姓へと変わった。
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