第146幕
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『……朝か』
襖の隙間から差し込んでくる太陽の光に気づいて書類から顔を上げる。外から聞こえてくる小鳥の囀り。
少しだけ襖を開ければ、綺麗な青空が広がっていた。
『今日もいい天気になりそうだな』
徹夜明けの目にはキツい太陽の光。これから段々と暑くなってくるだろう。徹夜した身体で夏の暑さに耐えられるのだろうか。否、耐えるしかない。
「あれ?兄さん?」
空を見上げている自分の元へと掛かる影。そちらへと向ければ、不思議そうな顔をして立っている朔夜の姿。いつもの隊服ではなく、私服の姿。そして首からぶら下がっているモノ。
『今日も行くのか?』
「うん!神楽ちゃんも来るっていうから行ってくる!」
『朝から元気なことで何より。気をつけて行ってこいよ?』
気だるげに襖に寄りかかって座っている俺の前に膝をついて元気に返事をする朔夜。その頭へと手を伸ばして軽く頭を撫でてやれば、嬉しそうに笑う顔。思わずこちらも笑みが浮かんだ。
「兄さんもあんまり徹夜ばっかしないでね?忙しいのはわかるけど……」
『ん、今日明日くらいで終わらせなきゃいけねぇ書類だから仕方ねぇよ。この後時間あったら仮眠すっから気にすんな』
「ゆっくり休んでね。あっ、僕もう行ってくる!」
俺の部屋にある時計を見た朔夜は慌てた様子で縁側を走る。まだ早朝なんだから騒がしくするなと怒ろうかと思ったが、嬉しそうに出掛けていく顔を見てしまえば怒る気にもならず、結局何も言わずに朔夜を見送った。
夏に入ってからというもの、毎朝のように出掛けていく朔夜。
朝飯も食べずに屯所を出ていくのを不審がった土方が、以前朔夜の事を尾行した事によって、朔夜が毎朝どこへ行っているのかを知った。
歌舞伎町付近の公園で、健康づくりの一環としてラジオ体操が行われているという。毎日決まった時間に来ては体操し、その日来た証として手持ちのカレンダー表にハンコが押される。
それを嬉々として朔夜はもらいに行っているのだ、と土方に教えてもらった時は呆気に取られた。わざわざそんなところまでラジオ体操をやりに行かなくても、屯所の庭でやればいいじゃねぇかと言った俺に土方は「そういうもんじゃねぇんだろう。まぁ、悪いことしてる訳じゃねぇから別にいいけどよ」と返された。
『ラジオ体操か……』
きっとハンコをもらう楽しみで行っているのだろう。朝、中々起きてこない朔夜が頑張って起きて行っているところからすると。
『いつまで続くか見ものだな』
色んなことに興味を持つのはいい事だ。今までやって来なかった事を進んでやっていく朔夜の姿は嬉しく思う。それがいつまで続くかは別としても。
『さて、俺も残りの書類を片付けるかな』
朔夜が屯所に帰ってくるまであと1時間。どうせ戻ってきたらお腹が空いたと言って食堂へと連れていかれるのだ。それまでに手元の書類をキリのいいところまでやっておかなくては。
開けた襖を閉めて再度机へと向き直れば、黙々と書類の作成へと手を動かした。
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