第145幕
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「その始まりは20数年前に遡る。江戸へと飛来した天人の艦は江戸城へ攻撃を開始。その圧倒的な武力を背景に高圧的な態度をもって開国を強要した」
それは誰もが知る史実。天人が提示した条約はどれも人間にとって不平等なものばかり。だが、それに首を横に振ろうものなら武力によって潰される。
幕府はそんな天人たちに弱腰になり、外交はもはや天人たちに有利に進んでいた。そんな幕府に不満を募らし、危機感を覚えた侍達が一念発起した。
それが攘夷志士。同じ思想を持つ者達の集い。彼らは自分たちの国を、意志を守るために身命を賭して戦った。
だが、その思い儚く、ただただ多くのものが死んで行っただけだった。
「しかしその後、戦いは大方の予想に反して膠着状態へと陥った。技術力では天と地ほどの差があったにも関わらず、攘夷志士たちは優位とは言えないまでも健闘したと言えるまでの成果を出した」
「正面からの戦闘を避け、ゲリラ戦に特化した戦術を採ったことは大きい。じゃが、その1番の理由は彼らが侍だったからじゃ」
そう言った永井の顔はどこか誇らしげに見えた。今はもう姿形も見えなくなった侍。廃刀令が敷かれたこの日本で侍といえば、未だに天人たちが許せないでいる攘夷浪士。
そして幕府の元にいる真選組。その真選組ですらも侍とは名ばかりの集団だったような気がする。
「明らかに劣る武装でも彼らは恐れることなく戦った。高度な文明をもつ天人たちは一見捨てばちとも取れる侍たちの思考を理解出来なかった。侍、天人たちはその存在に恐怖した」
「だがその結果、戦闘は長期化し泥沼の戦へ」
「そうじゃ。長きに渡る戦闘の日々。国賊の汚名まで着せられた攘夷志士じゃったが、それでも希望は生まれる。このころから一部の若者が頭角を現してきた」
古川はゴクリの生唾を飲む。噂では耳にしていた話。攘夷戦争時代に風靡していた人物。そうだ。自分はこの話を聞くためにわざわざこんな田舎まで出向いたのだ。
永井の発言をメモしていた手帳に聞き手に持つペンに無意識に力が篭もる。
「狂乱の貴公子、桂小太郎。鬼兵隊を率いた高杉晋助。免許皆伝の剣術の使い手、坂本辰馬らそうそうたる面々。命を賭して戦う彼らのその姿に攘夷の機運は再び高まり、彼らの周囲には知らず知らずのうちに多数の若者が集うことになった」
高杉晋助と桂小太郎。今ではテロリストして名を馳せている攘夷志士。かつての栄光は今やただの罪人という最底辺のレッテルとして彼らに貼られている。
そう、表向きではだ。
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