第174幕
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「米裏看守長なら辞職しましたよ」
収監されていた刑務所へと赴いた海は看守長はいるかと受付の人間に問い詰めた。だが、既に看守長は出て行ったあと。海のいた刑務所には他所から配属されてきた新しい看守長がいた。
『何も言わず出ていったのか』
刑務所を背に歩き出した海はポツリと呟いた。
別に何か言われたかった訳では無い。中では看守長に世話になった。一発二発殴ったところ気が済むわけでもない。
それでも、もう一度顔ぐらいは見ておこうと思っていた。
「海?」
俯いて歩く海へと声がかけられる。聞き慣れた声に海は顔を上げてその人物を探した。
「こっちこっち」
『銀?なんでここに』
刑務所から少し離れたところに突っ立っていたのは銀時。
「いやぁ、散歩してたら海が血相変えて走ってくのが見えたからよ。何事かと思ってついてきちゃった」
『お前なぁ……』
「で?どうしたの?まさか獄中生活が恋しくなっちゃった?」
『そんなわけあるか。土方からここの看守長が全責任背負ったって聞かされたから、その』
「心配して見に来たの?」
『そういうわけじゃない。ただ、全部背負う必要はないんじゃねぇかって』
中で起きたことは海と銀時、そして看守と囚人しか知らない。今回のことは看守が鍵をなくしたことによる騒動だった。確かに看守長が背負うべき問題もあるだろうが、全てというわけではないはずだ。それなのに、と続けた海に銀時は首を横に振った。
「あいつがそれを望んだんだから良いんじゃねぇの?」
『そう……か』
「あぁ、そうだ。さっきたまたまそこで会ったんだけどよ。海に伝言って」
『伝言?』
「おう。"やり過ぎたとは思ってる。でも、お前もやり過ぎてるだろう。それと、暗闇の中でいつまでも子供のように泣くのはやめなさい。君は一人ではないんだろう?"ってさ」
『はっ……やっぱ、居たのかよ』
「へ?」
思い出すのは海が懲罰房へと入れられた時。あの暗闇を数時間は耐えていたのだが、ゆっくりと侵食してきた闇に海が負けて泣き始めた頃。懲罰房の扉の前に人の気配がした。
海が泣き止むまでそこに居た存在。
『……ばからし』
「海?」
『なんでもない。ったく、悪徳看守長なら最後までそれ貫き通せっての』
根っこまで悪に染まれなかった彼はどんな思いでそこに立っていたのか。どんな思いでじいさんに偽りの手紙を出し続けていたのか。それは本人しか分からないこと。
ただ、一つ言えるとしたら。
『次の職場ではその不気味な笑顔貼り付けねぇようにな』
首を傾げる銀時に海は優しく微笑み、刑務所を後にした。
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