第174幕
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『じい……さん……?』
「まったく。若いもんはこれだから困るんじゃよ」
血気盛んなのはいいことなんだけどの。と笑ったじいさんは頭から血を流していた。
海が受け止めるはずだった木材はじいさんが海を庇った為、当たることは無かった。
目を見開いて驚いているとじいさんは面白いものを見るかのようにケラケラと笑った。
「なんじゃいその顔は。なんか変なもんでもついてるのか?」
『なんでこんなこと!』
「なぁに。お前さんが傷つくとめんどくさくなるやつがおるじゃろ。あやつに暴れられてはわしの特赦が無くなってしまうじゃないか」
『だからって……』
「気にするでない。これくらい……かすり傷……じゃ」
『じいさん!!』
ぽたりと垂れていく血が地面に広がる。じいさんはゆっくりと目を閉じてその場に倒れそうになった。倒れゆく身体へと手を伸ばし地面にぶつかる前に抱きかかえた。
「副長補佐!こちらへ!」
囚人と看守が入り乱れている中、一人の看守に呼ばれて海はそこを抜け出した。
「じいさんは大丈夫なのか」
『俺を庇ってもろに頭に入ったんだ。今は多分脳震盪で倒れたんだと思うが』
頭を揺らさないように固定している手がどんどん赤く染っていく。これでは出血多量で危なくなる。
看守長は苦しげな表情でじいさんを見つめていた。
『ここから出て早く病院に連れていかねぇと。他の奴らも、あんたも』
「俺はここを離れるわけにはいかん」
『そんなこと言ってる場合か?外に出れば応援を呼べる。あの人数相手に俺たちだけでどうにかなるようなもんじゃない』
「あいつらの狙いは俺だ。連中は俺が引きつける。その間にそいつらとじいさんを病院に連れて行け」
自分はここに残ると言って聞かない看守長に海はもう何も言わなかった。
「これをじいさんに渡しておいてくれ。最後の手紙だと」
渡された手紙を受け取ると、そこには看守長の名前が書かれていた。息子からの手紙ではなく、看守長からじいさんへ向けた手紙。
『これはあんたが──』
「見ーつけた!おい、そんなところでみんな何やってんだ?」
鉄パイプを柵にぶつけながら歩み寄ってくる囚人に看守たちが息を飲む。
そんな彼らを守るように看守長はゲートを閉め、開けられないようにと左手で強く掴んだ。
「早く行け!さっさとせんと懲罰房にぶち込むぞ!」
『だそうだ。あそこには入らない方がいいぞ?冷たい闇しかねぇから』
柵越しに看守達へと笑いかける海に看守長が驚愕の顔。何故お前がここに、と聞かれ、海は一言。
『こうなることはさもありなんだわ』
「貴様!早くここからッ」
『市民を置いて逃げろと?それ"警察"の人間に言ってんのか?』
看守長を守るように一歩前に出る。己の獲物は看守が持っていた棒。こんなんで足りるか、なんて考えるの野暮か。
「桜樹……」
『副長補佐と看守長に盾ついたんだ。懲罰房どころの話じゃねぇよなぁ?』
にやりと笑う海に囚人たちは怯えた様子だったが、それ以上に看守長に復讐したいという気持ちが勝ったのだろう。
各々武器を手にして海へと立ち向かってくる囚人たちを相手に海は嬉々として目を光らせた。
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