第173幕
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「入れ」
ドンッと看守長に背中を押されて入れられたのは懲罰房。
明かり一つない真っ暗闇の空間。窓もない部屋はじとりとした嫌な空気だった。
「そこで大人しくしているんだな」
『あの三人寄越したのあんただろ』
扉が閉まる瞬間、看守長は海の言葉を聞いて歪な笑みを浮かべていた。
『クソ野郎』
最初から分かっていた事とはいえ、こうも相手の思う通りにことが運んでしまうと面白くない。
相手を瀕死の状態にまで追いやってしまったのは完全に海が悪いが。まさかあそこまで弱いとは思っていなかったのだ。看守長が寄越した奴らなのだから、多少なりとも腕の立つ奴らなのだろうと思っていた。
なのにあの三人は呆気なく地に伏せてしまった。
『あー……完全にやらかした。後で怒られっかな』
懲罰房へ連れていかれる時に見た銀時の顔は驚愕、そして呆れ。"お前はすぐに手が出る"という銀時の言葉を思い出して乾いた笑いが出た。
『さて……どうすっかなこの状態』
自分が問題を起こして懲罰房に入った。海が起こした騒ぎ以上のことをしなければ、注意だけで済むだろう。銀時が下手なことをして懲罰房に入れられることは無い。
これくらいで守れるとは思わないが、少しは動きやすくなるかもしれない。
ただ問題なのが……。
『暗い……』
何も見えないこの暗闇に自分がどれだけ耐えられるかということである。
闇の広がる無音の空間に。
『(これは……辛いなぁ)』
自身に忍び寄ってくる闇に身体を強ばらせ、固く目を閉じた。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
「ったく……しょうがねぇジジイだな。受験生のママじゃねぇんだぞ、俺は」
手紙を書いている途中で寝落ちてしまったじいさんに布団を掛けた。
向かいの牢屋へと目を向けるが、そこには海は居ない。昨日までだったらそこに海がいた。じいさんと銀時のやり取りを見て微笑ましそうにしていた彼は今や懲罰房にいる。
「戻ってきたら一発殴らせろよ?バカ海」
自分の知らないところで何勝手なことしてるんだと。あのバカに説教してやらねば。
「書き終わったのか?ならばこっちに寄越せ」
牢屋から声のした方へと目を向ければ、そこには看守長がこちらに背を向けて立っていた。
「悪徳看守がこんな夜中に手紙配達かい?随分と仕事熱心になったじゃねぇか」
じいさんが書いていた手紙を封筒へと入れて看守へと手渡す。看守はニヒルな笑みを浮かべながら手紙を受け取り胸元へと入れた。
「覚えておけ。悪徳看守が人目を忍んで会いに来る時は取り引きか脅迫かどちらかだ」
「どちらもごめんこうむりたいね」
「ここから出してやると言ってもか?取り引きは簡単だ。火種になれ。黙って問題児を演じればいい。そうすれば懲罰房どころか自由への切符をくれてやる。なんなら今懲罰房に入っているあの男も一緒に外に出してやる」
看守長に差し出された息子からの手紙をじっと見つめてから銀時は受け取る。
「はっきり言ったらどうだ?じいさんの邪魔しろってよ。じいさんから執拗に金せしめていたのもただの挑発だ。あんたじいさん追い込んで問題起こさせたかったんだろ。俺にケンカを売ってたのも同じ。アイツを巻き込んだのも、俺が暴れるように」
全てはじいさんの特赦を取り消す為のもの。
それに海を使われたのだ。
そこまでして特赦を取り消したい理由はなんなのか。息子に会わせないようにしているくせ、手紙は毎回届けている。
「あんた一体何が……?」
「言っただろう。俺はブタ箱に入ったオモチャで遊ぶのが好きなんだ」
核心に触れる前に看守長は銀時の前から立ち去ろうと歩き出した。この男は一体何を隠しているのか。疑問が銀時の中で蟠りとして蠢く。
「あぁ、そうだ。あの男」
ぽつりと呟いた看守長は銀時の方を振り返った。
「あの暗闇の中ですすり泣いていたよ。お前の名前を呼んでな。副長補佐といえども、暗闇と無音は怖いらしいなぁ?」
「てめぇッ!!」
その言葉にカッとなった銀時は看守長へ掴みかかろうとしたが、その手を寸前で止めた。相手を掴みあげてしまっては看守長の思うつぼになってしまう。
「海……!」
一人、懲罰房に入れられている海の身が気がかりで、一睡も出来なかった。
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