第173幕
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「返事なんて期待しとらんかった。許してもらおうとも。だが、そのうちポツリポツリと返事が返ってくるようになっての。フッ……今じゃこの他愛ないやり取りが、わしの唯一の生きる糧になってしもうた」
「んな、まどろっこしいことしねぇで面会すりゃいいだろ」
「重罪人は面会も許されとらんでな」
そんなに厳しいのか。と言葉に出さずに海の方を見遣れば、渋い顔で海はこくんと小さく頷いていた。
『接見禁止処分……』
ポツリと呟いた海は悲しそうな、でも仕方ないという諦めの色。重罪人として拘置された者は一切の自由を奪われる。それは警察の海がよく知ること。
「だが、長年手紙ばかり書いとったら模範囚になっていてのう。あと1週間で特赦が出ることになっとる」
「会えるのか、息子に」
「ああ、あと1週間何も問題を起こさなければのう。お前さんが不実の罪でここに入れられたのも分かっておる。だが、この1週間、せめてわしが息子に会えるまではこれ以上騒ぎは……どうか、どうか」
「取り引きしようじゃねぇか」
「ん?」
「あんたの生きる糧とやらに協力するんだ。だったら俺の生きる糧にも協力しろ」
海とここを一緒に出るまでは。じいさんが無事、息子と面会する1週間後まで。その期間の取り引きをしようじゃないかと持ちかけた銀時に海はため息をついた。じとりとこちらを見る海ににやりと笑って。
「なんじゃと?!」
銀時を見たじいさんにこれみよがしにプリンを見せる。銀時の手にある皿には二つのプリン。
「お……お前さん……それはダメじゃーー!!」
『言わんこっちゃない』
ブチ切れたじいさんが海を押しのける。海は巻き込まれないようにと己のプリンを手に持って銀時達から離れた。
「ジジイ!!てめっ、どこが模範囚なんだ!プリン一つで騒ぎ起こしてんじゃねぇか!」
スプーンを銀時の頭に突き刺して叫んだじいさんに周りの囚人たちは何事かとどよめく。騒ぎを起こさないで欲しいと言った直後のこれである。海といい、このじいさんといいなんでこんなにも短気なのか。
「返せー!わしのプッティンプリン返せー!」
「てめぇ、息子とプリンどっちが大事なんだ!?」
「むっ……むすプリ!」
「"むすプリ"って何!?"SQ."で連載中!?」
「おい!何を騒いでんだ!?」
騒ぎを聞き付けた見張りの看守が銀時とじいさんに注意すべく声をかける。それに反応したのは海で、プリンを頬張りながらぺこりと頭を下げていた。
『お騒がせしてしまい申し訳ない。このバカには後でキツく叱っておきますので』
「え?え、あ、はい。お願いします?」
立場上、海の方が確かに上ではあるのだが、ここは監獄。海は囚人としてここに居るというのにそれでいいのか。一言謝った海に看守は深々と頭を下げて去っていくのを見て、銀時はなんとも言えない顔を浮かべた。
『いい加減にしろよ、銀』
「それはこのジジイに言ってくんない!?」
『人のものを盗った銀時が悪い』
「ジジイの頼みを聞いてやるんだからこれぐらい貰ったって良いじゃねぇか!」
これは正当な取り引きなんだと叫ぶと、海は面倒くさそうな顔をした。
『俺はもう出るからな』
「へ?どこい……ングッ!?」
言葉を遮るように海は銀時の口の中へと持っていたスプーンを突っ込む。口内に広がるカラメルの甘い味。
「ちょ、おい!海!」
「なんじゃ?痴話喧嘩か?」
「お前のせいだろうが!!」
盆を持って先に片付けに行ってしまった海の背中を見つつ、自分は関係ないという顔をするじいさんに銀時は今度こそキレた。
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