第173幕
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「へぇ、お前さん真選組なのか」
『一応は』
「初めて見る奴だったから誰かと思ったが……でも、なんでこんな所に来たんじゃ?」
『どっかのバカな幼なじみが捕まったっていうから』
「心配して見に来たのか」
『別にそんな心配はしてない、けど……』
食堂で黙々とご飯を食べている銀時の横に座っているのは銀時と同じ囚人服を着ている海。
海が看守長を殴り倒し、慌てていたところを見張りに見つかった。海はその場で見張りに尋問され、注意されていたのだが、目を覚ました看守長によって海は捕まった。
いくら副長補佐とは言えども看守長に手をあげたことには変わりはない。銀時たちの前で手錠をかけられた海は口元をひきつらせ「やっべ、土方に怒られる」と呟きながら看守長に引きずられていった。
「バカはどっちだバカは」
勢いに任せて殴って捕まってしまった海を責めるように見れば、海は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
『しょうがないだろ……』
「しょうがなくありません。海はすーぐ手が出るんだから」
何でもかんでも殴って済ませるんじゃありません、と叱る。悪いことをして怒られた子供のように海は唇を尖らせて銀時からそっぽ向く。その姿を見たじいさんは二人を微笑ましそうに見ていた。
「なんじゃ。友達というよりも親子みたいじゃな」
「あ?こんなデカい息子持った記憶はねぇよ。それにコイツは息子じゃなくて嫁なの」
「嫁?」
『銀時……てめえ、その減らず口どうにかしろ』
「ほらまた手が出てる。やめろって言ったばっかでしょうが!」
言ったそばから海の左手は強く握りしめ、今にも銀時を殴りつけようとしていた。その手を掴んで己の手で包み込む。固く握られた手を緩めるように手を揉んだ。
「まったく……若いのは元気がありすぎて困ったもんじゃな」
『すみません。ご迷惑をおかけして』
「迷惑なんて思っとらんから気にしなくていい。わしよりそっちのやつの方が気にしてるようじゃぞ?」
『気にしてる?』
不意に海が銀時の方へと振り返る。余計なことを言いやがって……と銀時は心の中で悪態つきながら海から顔を逸らした。
『銀時?』
「……お前まで出られなくなったらどうすんだよ」
『一人でこんな所に居るよりかはマシだろ?』
「お前まさかわざと殴ったのか!?」
『そんなことするかよ。それなら銀時の不正逮捕を暴いた方が早い』
無意識に殴ってしまったのもどうかと思うのだが。元々、言葉にするよりも態度に出やすいタイプの人間だから仕方ないとはいえ、今回の一件で海のこの癖をどうにかしないといけないということがよく分かった。
「(あ、でもそうしたらアッチの方が……)」
はっ、と気づいたのは夜のこと。態度に、顔に出やすい海を弄るという楽しみが無くなってしまう。それはそれでつまらない。
「やーめた」
『は?』
「いや、こっちの話。つか、なんで切り干し大根が俺んとこに二つもあるの?」
食事の続きを、と焼き魚に箸を向けた時に目に入ったそれ。何となく海のお盆を見たが、海の分の切り干し大根はちょこんと乗っかっていた。ならばこれは誰のものなのか。
『隣から回された』
「おい、じいさん。好き嫌いするんじゃねぇよ」
銀時のお盆の上に乗っかっている切り干し大根。いつの間に渡されたのか。
「この間の礼じゃ」
「礼ならデザートにしてくれよ」
「プリンはやらんぞ。切り干し大根なら明日も明後日もくれてやる」
「ただ苦手なもん回されただけじゃねぇか」
『俺もやろうか?切り干し大根』
「ちゃんと残さず食べなさい。お前は食べれるでしょうが」
銀時のお盆へと自分の切り干し大根を乗せようとしてくる海の手を押し戻す。
「で、手紙、何て書いてあったんだ?」
押し戻された切り干し大根をもぐもぐ食べる海を横目に気になっていた事をじいさんに投げかけた。
「なぁに、他愛もないことじゃ」
「その他愛もないやり取りするためにあんな野郎に賄賂まで送ってんだろ」
「出所後の金も200年後じゃ使う当てもあるまい。いい年してこんなところにいるろくでなしおやじじゃ。家族には数々迷惑かけてきた。じゃが、詫びる家族ももう……息子しかおらんのじゃ」
ちらりと見たじいさんの横顔はとても寂しく、先程、銀時と海をからかっていた陽気さは無くなっていた。
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