第172幕
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『はい。面会……というか、囚人の確認をしに』
「わかりました。それではこちらの書類にサインを頂けますか?」
提示した警察手帳を隊服の胸元へと戻し、海は差し出されたペンを受け取って書類に自身の名前を書き残した。
「それでは看守長をお呼びいたしますね」
『ええ、お願いします』
頭を下げた男に海も頭を下げ、看守長が来るのを待った。
あのバカは今度は一体何をしでかしたんだ。
昨日、屯所でいつもの様に書類に追われていた海の元へ来たのは泣きべそかいた神楽と新八。何があったんだと聞いてみたら、銀時が捕まったと言うではないか。
また変なことして誤解されたんじゃないか?と軽く受け流した海に新八は必死な様子で助けて欲しいと言ってきた。その様子があまりにも真剣だった為、海は困惑しながら話を聞いた。
今回は相手が悪かったとしか言い様がない。
『(めんどくせぇ奴に盾つきやがって……あんのバカ)』
ここの看守長の噂はかねがね聞いている。しかも悪い方面について。
自分に逆らう者がいれば、やってもいない罪を被せて刑期を長くする。この男の元に来てしまった囚人たちはいつまで経っても牢獄から出ることは出来ない。出所するためには看守長の目に止まらぬように、ひっそりと刑期を全うするしかない。
そんなやつに歯向かったなど聞いた時は頭を抱えて蹲ってしまった。
「お待たせいたしました。副長補佐殿」
はぁ、とため息をついていた海の元へと看守長が来た。緩んでいた気を戻し、副長補佐としての顔を作る。
『いえ、こちらこそお忙しいところ申し訳ありません』
「お気になさらず。じゃあ、参りますかな?」
『はい』
看守長に促されるように海は牢屋へと廊下を歩き始めた。
今日の訪問は囚人たちの確認というもの。もう少しで刑期を終える囚人の態度を見定めるという建前の元、海はここに訪れていた。
こうでもしなければ銀時と会うことは不可能だろう。警察の人間である自分が囚人と面会しているなんて知られたらなんて思われるか。脱獄の手引きをしていたんじゃないかと疑われては後々めんどくさい。
ならば自分が持ち得る権力を行使して正攻法で会うしかない。
『(あいつが変なこと言わなければいいけれど)』
看守長の前で親しげな会話なんかしたら一発でこの訪問は無駄となる。
銀時には何も伝えていないが、察してもらうしかない。
「こいつも刑期がもう少しですね」
『そうですか。迎えに来る人間はいるんですか?』
「ええ。家族が来るとかで」
牢の中を一つ一つ確認していきながら歩みを進める。皆一様に看守長を睨むような目を向けている。その後ろにいる海には不思議そうに。
それだけでどれだけ看守長が囚人たちに嫌われているかがわかる。囚人が看守を良く思わないのは仕方ないとしてもこれは異常だった。
「あぁ、この先に最近新しく入ってきた囚人がいるんですよ」
『罪状は?』
「暴行罪、未成年に対する淫行罪。その他諸々ですね」
『淫行罪……ね』
きっとそれは新八と神楽のことを言いたいのだろう。そういう類の店に新八たちを連れて行ってしまった銀時が悪いといえば悪いのだが、事をしてしまったわけではない。それなら注意するだけで良かったのでないだろうか。
『誰かが通報されたんですか?』
「いえ、たまたまそこに私が居合わせたので、私が捕まえました」
『そうですか。大変でしたね』
「血気盛んな男でしてね。抵抗するのでやむなく、ですよ」
こちらを振り向いた看守長はにやりと口元を歪ませて海を見やる。その気持ち悪い笑みに悪寒を感じてサッと目を逸らした。
「あぁ、ここですよ」
看守長は牢の手前でぴたりと足を止めた。
海の耳に聞こえたのは聞き慣れた銀時の声と年老いた男の声。
「また懲りずにそんなもん書いてるのか?罪人のおやじから手紙なんぞが来る息子さんの気持ちも考えろ」
にやり、と笑った看守長は胸元から一通の手紙を取り出す。
「海……?」
牢にいた銀時が海の存在に気づいて声をかけようとして来たが、海は口元に人差し指を立てて"黙っていろ"と目で訴えた。
「……っ」
そばに居るのに話しかけられない、手を差し伸べてやることも出来ない。そんな己を恨みつつ、海は看守長と囚人の会話を見守った。
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