第171幕
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サルが将軍家へと戻されてから数日、あれから九兵衛と会うことなく過ごしていた。
あれだけ仲良くしていたサルが居なくなったことによって、九兵衛は寂しく思っているだろうと顔を出しに行こうとしていたのだが、柳生家の門をくぐる前に海は踵を返していた。
"今回は様子見しとけよ"
九兵衛に会おうとすると銀時に言われた言葉が脳内で再生される。優しすぎるのは時に残酷なのだと諭されてしまえば、どうすればいいか分からなくなった。
このまま会って話をしたとして、九兵衛は本当にそれで気が紛れるのか。もしもっと傷を深くさせるようなことになってしまったら。
そう思ったら九兵衛に会う気が失せた。
『……難しいもんだな』
「兄さん?」
天井を見上げてぽつりと呟けば、共に書類を作成していた朔夜が不思議そうに海を見つめる。
『なんでもない』
「そう?何か悩み事がありそうな顔してるけど」
『そんなに気にすることでもねぇよ』
「ならいいけど……何かあるなら言ってね?」
腑に落ちないという顔をしつつも朔夜は海から目を逸らして手元の書類へと落とす。
壁に背を預けてじっと天井を見つめる。自分には何も出来ないというのは重々承知してはいるのだが、九兵衛のあの寂しげな顔を見てしまってはどうにかしてやりたいと思ってしまう。
『(将軍に聞いてみる……ってのも出来るっちゃ出来るけど……)』
プールの件以来、ちょくちょく将軍から文が届くようになった。友人のように思われているのだと気づいたのは少し前、その日あったことやなんやらを書いては送ってくる将軍。たまにその文に返事を書けば、松平から電話が来て「海くーん!将ちゃん喜んでたぜェ?」と言われる。
手紙を返したくらいでそんな喜ばれるのもなんか恥ずかしい。
それくらい仲良く思われているのであれば少しくらいのわがまま……と思ったが、それはそれでまた話が違ってくるだろう。だから、下手に手が出せずにいた。
だから今は銀時の言う通りに様子見している。それでいいのかもわからないままだが。
「あ、ねぇ、兄さん」
『ん?』
「さっき土方さんが動物園がどうのこうのって言ってたけどなんの話?」
『動物園?』
天井から朔夜へと顔を戻す。土方が食堂にいた時にちらりと聞いたとのこと。動物園から脱走したサルたちの確保を動物園の職員に頼まれたと土方は言ったらしい。
『サル?なんでまた』
「さぁ?それ以上は聞かなかったけど、隊士たち数人連れて土方さんサル探しに行ってた。土方さんもそのまま動物園入ればいいのにね」
『あれを世話する職員のが大変になるだろ』
動物園なのにマヨネーズの消費量が多いなんて笑えない。屯所にいてもマヨネーズの消費が異常なのに。
『……つか、なんだよ。朔夜は土方嫌いなのか?』
動物園にそのまま入れだなんて、二度と屯所に帰ってくるなと言っているようなもの。自分の知らないところで土方と喧嘩でもしたのかと思ったが、朔夜は首を横に振って違うと答える。
「嫌いじゃないよ。むしろ土方さんは好きな方かな(いじめがいあるから)」
『そうか?』
「うん。何かと構ってくれるじゃん?あの人」
『面倒見がいいからな。あんなだけど』
一言目二言目にはたたっ斬ると物騒な発言をするやつだが、根はとても良い男。不器用なところがあるから中々周りに伝わりづらいが、よく話をしてみればわかること。
癖が強すぎるのが難アリだが。
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