第170幕
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「将軍家からあのサルを返せとの命が来ているんです。もともとあのエテ公が将軍家の縁者に譲られるものだったという話は聞いているでしょう。そちらさんがあのエテ公のすっかりしつけの行き届いた今の様子をどこぞで耳にしたらしくてね。それならばあの時の約束、という話に」
「そ、そんなの今更ズルいアル!厄介払いしたくせに」
「しかし元々がそういう話だったんです。荒くれザルの教育を頼むと」
「でも、九兵衛さん……」
愛着が湧いてしまった今では手放すのは惜しい。常に側にいた存在がぱったりと居なくなってしまうのはとても寂しいもの。それで九兵衛が傷つかないか、と思い詰めて俯く新八。
「以前の若なら心配要らなかったでしょう。でも、エテ公を溺愛する今の様子では……」
東城は一呼吸置いてから銀時へと土下座をした。自分からその事実を伝えるのははばかられる。だからそちらから九兵衛に伝えて欲しいと。
神楽に勝手なこと言うなと言われた東城は、九兵衛に嫌われるかもしれないから嫌だと子供のように駄々をこねる。喚き散らす東城の後ろからゆっくりと忍び寄るように入ってきた存在に気づかずに。
「ウキィ」
新八と神楽の視線に気づいた東城はその目の先へと振り返る。
そこに立っていたのはサルを肩に乗せた九兵衛。
しんと静まりかえる中、九兵衛は無表情で口を開いた。
「そうか……お上からサルを返せとの命が……」
「わ、若?」
呟いた九兵衛は俯き、そして顔を上げた。寂しげな声色から一転、嬉しそうに微笑みながら銀時たちを見据えた。
「安心したよ。無事、務めが果たせたようで」
「えっ?」
「今の…… 寿限無寿限無ウンコ投げ機一昨日の新ちゃんのパンツ新八の人生ウッキーバルムンク=フェザリオンアイザック=シュナイダー三分の一の純情な感情の残った三分の二はさかむけが気になる感情裏切りは僕の名前をしっているようでしらないのを僕はしっている留守スルメめだかかずのここえだめめだか……このめだかはさっきと違う奴だから池乃めだかの方だからラー油ゆうていみやおうきむこうぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺビチグソ丸……ならお返ししても以前のように悪さをすることもあるまい」
「いや、その長い名前の時点ではた迷惑だと思うんですけど」
「糞を人に投げる癖も便器に投げる癖をつけさせることによって矯正したしな」
「ウキィ!」
べし、とサルは銀時へと糞を投げつけてはしてやったり、と笑う。
「ついでに俺が便器じゃないってこともしつけてもらえるかな」
頭へとぶつかった糞をポタリと机に垂らして口元を引き攣らせる。ぷーんと漂う独特な臭いに顔を顰めつつ、近くに置いてあったティッシュを手に取って乱暴に拭う。
九兵衛の肩に乗っていたサルは床へと降り、小さい手足でとてとてと歩く。もしかしてまた投げつけてくるのか?と身構えたが、そうではないらしい。
サルが向かったのは銀時の方ではなく寝室の方。小さい手で襖を開けて部屋の中を覗き込み、目的の人物を見つけるとにやりと口角を上げてケツへと手を伸ばす。
「ちょ、おい!!てめぇ、寝てるやつにまで投げつける気か!!」
慌ててサルを止めようとしたが間に合わず、糞は部屋に向かって投げられる。ぺちゃっ、と何かに当たる音がして冷や汗が垂れた。
「海……くん?」
このサルは何故か海の顔面に向かって糞を投げる。それに何の楽しみを見出しているのかはわからないが。
もしかしたらあの可愛い寝顔にぶつけたのか。
震える手で襖を開けて中を覗き込む。
『……おい、エテ公。てめぇ、人の寝込み襲うなんざ舐めた真似してくれるじゃねぇか』
毛布を盾にした海がサルに向けてこれでもかと殺気を飛ばす。その気迫にサルは身を震わして九兵衛の元へと帰っていった。
「だ、大丈夫か?」
『悪い、毛布汚した』
糞のついた毛布を申し訳なさそうに見つめ、頭を下げる海に銀時は苦笑を浮かべる。
「仕方ねぇよ。あのサルが悪ィんだから」
『後で洗っておく、から』
「別に気にすんなって」
たどたどしく話す海はまだ眠たそうで、ゆらりゆらりと頭が揺れていた。
糞のついた毛布で寝直すのは流石に可哀想かと押し入れから掛け布団を引っ張り出したが、海はそれをやんわりと拒否した。
「海?」
『もう帰らねぇと』
「そんなんで帰れるのかよ。もう少し寝てけばいいじゃねぇか」
ふらつきながらも立ち上がって帰ろうとする海を制止し、また寝かせようとしたのだが、海はふるふると首を横に振って銀時の手を弾く。
『ちょっと……な』
「……お前が手を回すことなんてないだろ」
『そんなことはしねぇよ。相手が相手だからこちらの言い分が通ることはない。けど、』
「海、俺この間言ったよな?」
銀時の言葉に首を傾げる海に小さくため息を漏らす。この間、と言ってももう大分月日が経っているから忘れていても仕方ない。とはいえ、頭の片隅に残しておいてくれても良かったんじゃないか、と残念でもあった。
「九兵衛のこと思ってあれこれ手を出すのはいいけど、それが本当にあいつの為になるのか。他のやつがどう思うのか。ちゃんと考えてからにしろな?」
またお前は優しすぎてるよ、と付け足すと海はハッと我に返った。「ごめん」と一言謝って俯いた頭を優しく撫でる。
「いいよ。ほんと、お前は優しすぎるんだからよ」
『別に……俺は』
「今回は様子見しとけよ」
落ち込んでしまった海を慰めるように頭を撫で続け、銀時は九兵衛の肩に乗っているサルへと目を向けた。
「(そう簡単に……あのサルが他所へと懐くかねぇ)」
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