第169幕
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「桜樹さんにあまり無理をしないようにお伝えください。えっと……」
「朔夜です」
「朔夜くん」
「はい!」
屁怒絽に名前を呼ばれて朔夜は元気に返事を返す。屁怒絽はおもむろに朔夜へと手を伸ばして黒髪を撫でた。
「いい子ですね。さすが桜樹さんの弟さんです」
「えへへ」
褒められて嬉しそうに破顔した朔夜がちらりと見たもの。それは己を化け物でも見るかのように見てくる銀時たちの目。
「(なんですか)」
「(いや、お前よくソイツと普通に話してられるな!?)」
「(優しい人ですよ?この人)」
「(悪魔みてぇなツラしてるような奴が優しいだって!?ちゃんとそいつのツラ見てみろよ!それでもそんな事言えるのか!?)」
銀時に言われて朔夜は屁怒絽の顔を見る。確かに怖そうな顔をしているが、朔夜の頭を撫でている屁怒絽はどこか柔らかい印象。別にそんなに怖くないと銀時に伝えれば「あいつはもうダメだ」と呟いていた。
「でも、桜樹さんあのままでいいんですか?」
「え?」
「お風呂で寝ると風邪ひくってよく聞くので。大丈夫なんですかね?」
「あー……そろそろ起こしてあげないとダメかな」
「なら私が起こしてきますよ」
「え"、ちょッ」
屁怒絽の言葉に銀時が顔を真っ青にして腰を上げる。海の元へ行こうとしている屁怒絽を引き留めようと伸ばした手は空を切った。
「朔夜!止めろ!あんな悪魔に海を起こさせるな!寝起きドッキリとかの話じゃねぇから!!」
「で、でも……!」
もう揺さぶり起こしてる。
水風呂の方から屁怒絽は海へと近づき、壁によりかかっている海の肩を掴んで揺さぶっていた。
『ん……』
「桜樹さん。起きてください。じゃないと風邪ひいちゃいますよ」
「海ィィィ!!!!!!」
『……ぎ……ん?』
「起きましたか?」
銀時の叫びで目が覚めた海はゆっくりと目を開けて辺りを見渡していた。
「あ、兄さん起きた」
「ちょ、朔夜!お前、海を回収してこい!」
銀時に背を押されて朔夜は大風呂の中へと落とされる。何をするんだと振り返った先には銀時たちは居なくて首を傾げたが、もう気にするまいと朔夜は海のところへと行った。
『なんでここに屁怒絽さんが?』
「今日は家族で銭湯に来たんです。江戸の良さを知ってもらおうと思って」
『そうだったんですね』
和やかに話している海と屁怒絽。そんな二人の元へと朔夜がひょこりと顔を出す。
『朔夜?』
「ずっと寝てたんだよ?兄さん」
『悪い。ちょっと心地よくて』
「お風呂は眠くなりますよね。私もよく寝ちゃうのでその気持ちよくわかります」
ははは、と笑う屁怒絽に海も優しげな笑みで笑い返す。
なんだ、やはりこの人は悪い人では無いじゃないか。海があんなにも親しげに話しているのだからきっとそうだ。銀時たちは彼のことを悪魔と呼んでいたが、それはただの誤解。
そっと後ろを振り返った先は屁怒絽の家族に囲まれて萎縮している銀時たちと、銀時たちを見下ろす屁怒絽の家族。
蛇に睨まれた帰るのように微動だにしない銀時たちに向けて朔夜はただ微笑んだ。
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