第167幕
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「紗夜ちゃん!!」
聞き慣れた声。少し遠くから聞こえた声は段々と自分に近づいてきた。間近で名前を呼ばれたのと同時に横から抱きつかれた。
「花……」
「怪我は!?してない!?」
ペタペタと紗夜の身体を触る花に紗夜は首を横に振って大丈夫と示す。花は酷く安心した表情で「良かった……」と呟いた。
「おいおい、こっちもこっちで大変そうだったみてぇだな」
『そんなでも。片腕で何とかなるくらいだったから』
「ふーん?じゃあ、その切り傷はなに?」
花と共に来ていた銀髪の男は海の前に立って左腕を掴む。掴まれた海は一瞬痛そうに顔を歪めたが、すぐに平静を取り戻してなんでもないように取り繕った。
『少し切れただけだから大したもんじゃない』
「少しってもんじゃないでしょうが。ったく、すぐそうやって無理をする。お前この間怒ったばっかだよね?やっぱ海は鳥頭なの?馬鹿なの?馬鹿な子なの?」
『それ以上言ったらお前の頭かち割んぞ』
「言われたくないならやんないでくんない?」
銀髪の男と海の会話を聞いていた紗夜は口をポカンと開けて驚いていた。
二人の距離が近すぎる。掴んでいた左腕を引き寄せた銀髪は海を抱きしめていた。海も抱かれていることになんら気にする様子もない。
これではまるで恋人同士ではないか。
驚いた顔のまま二人を眺めていたら、不意に銀髪の男と目が合った。紗夜を見つめている目は細くなる。そして銀髪は己の口元に人差し指を立てた。
"子供は見ちゃいけません"
男の口元がそう動いた気がした。
視線はすぐに外され、銀髪の男は海から一歩身を引いた。
「怪我手当てしにいくぞ」
『ん……あ、いや、ちょっと待った』
「あ?」
海の手を引いて歩き出そうとした銀髪に海は制止の声をかける。
『家まで送ってく』
海は紗夜と花の方を振り返った。こんな事があったばかりなのに子供だけでは帰せないと言った海に銀髪の男は面倒くさそうな顔をしながら頭をガシガシと乱暴にかく。
「そいつら倒したんだからいいんじゃねぇの?大体、そこのガキにお前、大嫌いって言われてんだぞ?そんなクソガキ放っておけよ」
『ダメだ』
凛とした声で海は銀髪の男の言葉を拒否し、花と紗夜へと歩き出す。紗夜はまた花を庇うように背に隠した。
『帰るぞ』
「一人でも……帰れる」
『そんな怯えた顔で帰せるわけないだろう?』
「怖くなんかない!」
『子供は黙って大人に甘えておきなさい。いつか甘えられなくなる時がくんだから。その時に強がればいい。強がるにはまだ早ぇよ』
わしゃりと頭を撫でられて紗夜は俯いた。
この男にだけは弱味を見せたくなどなかった。花にこの男よりも自分の方が強いのだと、賢いのだと見せたかった。それなのにいとも簡単に自分の見栄はこの男に崩されてしまう。
「やっぱあんたなんか大嫌い」
『はいはい、大嫌いでもなんでもいいから。ほら早く帰んぞ』
呆れた顔で笑う海が紗夜へと右手を差し出す。その手をじっと訝しげに見つめていたら花に背を押された。
「帰ろう?紗夜ちゃん」
「……うん」
花に促されるように海の手を取り、紗夜と花は帰路についた。
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