第167幕
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『怪我は?』
倒れている男のすぐ後ろに居たのは社会見学の為に呼び出した海。
足元に落ちていた刀を拾い上げて腰のベルトへと差していた。
「なんで、ここに」
自分は彼から離れるために逃げ出したはず。それなのに何故この男が自分を追って来ていたのか。それにどうしてこの倒れ伏している男に命を狙われたのか。
『君たちを連れて歩いてる時から妙に視線を感じてな。最初は俺が狙われてんのかと思ってたんだが……』
海はそこで言葉を区切って紗夜を見つめた。呆然と立ち尽くす紗夜の元へと歩み寄り、紗夜の前で片膝ついてしゃがみこんだかと思ったら緩い笑みを浮かべた。
『俺だけじゃなくてまさか君まで狙われてたとはな』
「私が……?」
『お前、遠山のところの娘だろ』
苗字を呼ばれてびくりと肩を揺らした。父の事を知っているのであれば、自分の存在を知っていてもなんらおかしくはない。でも、彼は"紗夜"の事までは知らなかったはずだ。一度も会ったこともない子供を見て、自分の部下の娘だと判断できるものなのだろうか。
「なんで分かったの?」
『屯所でな。耳にたこができるほど聞かされてたんだよ』
「なにを?」
『毎日、君の話を聞いてたからな。とても頭のいい子だって。だからつい色んなことを教えてしまう。やたらと内部の情報に詳しかったのはそのせいだろ。あぁそれと"可愛い娘が口をきいてくれない。どうすればまた話してくれるだろうか"って言ってたぞ』
「お父さんが……?」
父が自分のことを気にしていたなど意外だった。いつもいつも帰ってきて話すことは海の事だったのに。そんな父が海に自分のことを相談していたなど信じられるわけもない。
『最近、あんま話してねぇんだって?早めの反抗期か何かか?』
「別に貴方には関係ないじゃない」
『確かにな。俺には関係ないわ』
「でも、」と呟いた後、海は何かに気づき立ち上がった。紗夜を背に隠すように海は何かと対峙する。
『俺の傍から絶対に離れるな。いいな?』
「何でそんなこと言われなくちゃいけないの!」
『死にたくなければ言うこと聞くことだ』
"死"という言葉に先程の光景がフラッシュバックして青ざめる。またあんな怖い思いをするのか、と身震いした紗夜は縋るように海のズボンを掴んだ。
『大丈夫。ちゃんと守るから』
紗夜を安心させるように海は振り返り笑った。
海と紗夜を囲うように立つ男たち。皆、手には刀を手にしている。海と紗夜を殺すべく、その刀は突き出された。
「嫌ッ!!」
殺される、と海の右足にしがみついた。カタカタと震えながら離さないように必死に掴んで。
『やっぱ刀身使えねぇのは不便だな』
聞こえたのは、ため息混じりの気だるげで気の抜けるような声。そして紗夜の頭に乗る手。
ゆっくりと見上げれば、真上には先程と何ら変わらない海の柔らかい笑み。
『もう終わった。怖いのはもう居ねぇよ』
鞘がついたままの刀を肩に掛けて笑う海。周りを見渡せば、自分たちを殺そうとしていた男たちは一人残らず倒れていた。
『怖い思いさせて悪かった』
ごめんな、と謝りながら紗夜の頭を撫でるその手は父がよく自分を撫でていたあの手と同じで、とても優しかった。
あんなにも自分はこの男を嫌っていたのに。嫌いだと言った自分を守り、ましてや父のように優しく頭を撫でる海に紗夜は罪悪感に駆られた。
「ごめ……なさ……」
『どうした?もしかしてどこか怪我してんのか?』
紗夜の言葉に海が慌ててその場にしゃがみこんだ。怪我をしているのかと聞いてきている海に、泣き出してしまった紗夜は答えることが出来なかった。
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