第167幕
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『(どうするかなぁ)』
子供達を連れて海はかぶき町をふらりと歩く。道行く人に微笑ましく見られ、海はいつもの様に人当たりの良い笑みを向ける。その度に後ろから突き刺さるような視線を背中に浴びた。
言わずともあの女の子だろう。ちらりと背後へと視線を向ければ、羨望の眼差しを海へと送る花とその花の手を強く握り締めながら海を射殺すほど睨みつけてきている女の子、
海が町民に笑いかける度に気に食わないという顔を向けてくる紗夜に海は疑問符が飛び交った。
「あ、あの!」
『ん?どうした?』
そんな空気に気づいていない子供らのうちの一人が海に声をかける。足を止めてその子へと振り返ると、一番後ろにいた男の子が緊張した面持ちで手を真っ直ぐ上げていた。
「真選組の皆さんは毎日こうして町中を歩いているんですか?」
『そうだな。決まった時間に交代制で周ってる』
「飽きたりとかしないんですか?」
『それはないな。毎日、町の景色は違うし……起きる事件も多種多様……あー、色々とあるから』
"多種多様"と言った後、傾げられる頭。まだこの子達には難しい単語だったかと海はすぐさま言い方を変えた。
「言い変えなくてもわかる。バカにしないで」
『……そうか』
気をつかって言葉を選んだが、紗夜によって責められて海は口元を引き攣らせる。彼女の不機嫌顔を理解していない他の子達は不安げに視線を泳がせた。
「紗夜ちゃん!ダメだよそんなこと言ったら!私だって分かんなかったもん」
「分からなかったのなら私が教えてあげる。子供相手に難しい言葉を使う大人が悪い」
なんなんだこのクソガキは。
最初こそはそんなに気にはしていなかったが、そろそろ我慢の限界というものもある。海に対して辛辣な言葉を投げかけてくる紗夜に段々と眉間に皺を寄せ始めた海。
「じ、事件ってどんなのがあるんですか!?」
そんな海と紗夜の冷たい空気を断ち切るように先程の子供が掠れ気味な声で叫んだ。
『え?あぁ……』
海は子供たちから視線を外して空を見つめる。ここ最近起きた事件と言えば、と思い出しているとまたもや紗夜が口を挟んできた。
「数日前の攘夷浪士の立てこもり。数人の隊士を引き連れて行ったんでしょ。この"副長補佐"は」
「す、すげぇ!」
なんでこの子は知っているんだ。
じとりと探るように海は紗夜を見たが、紗夜は海を一睨みしてから視線を外した。
『へぇ?君は物知りみてぇだな』
「別に。これくらいみんな知ってることでしょ」
『いや?まだこの件については新聞にも載ってない。なんせ副長補佐である俺が箝口令を敷いたからな。知ってる人間なんざ俺が連れて行った隊士数名とその事件を起こした浪士だけだ』
「かんこうれい?」
花が不思議そうに海を見やる。どうせ紗夜が花に説明するだろうと思った海は花に微笑みかけるだけで何も言わなかった。
案の定、花に箝口令を説明した紗夜。
『(この子……もしかして親が幕府繋がりか?)』
子供にしては博識すぎる。それに先日の事件についてもだ。その件の書類は己が作成している。まだ副長である土方にも提出していない書類。
事件が起きた場所は人目につかないような寂れた廃屋。それを知ることが出来るといったら、廃屋近くの工場の従業員だけ。彼らにはきちんと口止めもしたはず。
ならば何故、紗夜がこの件を知っているのか。残るとしたらこの子の両親が幕府関係者というものだろう。
となると、その親が口を滑らしたということになるのだが。
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