第166幕
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「者ども、よく見ておけ!これが謀反人の末路だ。我に仇なすは元老に、元老に仇なすは春雨に仇なすことと同じ。これなる掟を軽んずれば鉄の集団も烏合の衆と成り果てる!」
天人たちが集まる広場にて阿呆がマイクを使って話しているのをそっと隅っこで眺めた。
「(どいつもこいつも阿呆面だなァ)」
神威の処刑を楽しげに見つめる天人たちに悪態つく高杉。こんな場所から早く立ち去りたいが、まだやるべき事が残っているせいで離れるに離れられない。
これならば己も仲間と共に江戸へと戻り、ひっそりと海の姿を見守っていても良かったかもしれない。
真選組として幕府に身を置いている海。江戸を守る役目を持つ彼はよく町中を歩いている。気配に敏い彼の側に寄るのは自殺行為に近い。その為、遠目からしか彼を見ることは出来ないが、それでもいいだろう。
もう隣で笑い合うことも出来ない自分の身分を考えれば仕方ない事。
物思いにふけっていた高杉は不意に顔を上げて阿呆を見やる。阿呆は神威に何か言い残すことはあるか?と問いかけていた。
それに対して「アホ提督~」と返す。自分も何度かアホ、と呼びかけては阿呆提督と言い直していた。名前も頭もアホな提督。これは笑わざるを得ないだろう。
キレた阿呆が神威を殺せと怒鳴り散らすのを聞いた高杉はぺたり、と草履を鳴らして神威の処刑台へとその身を晒した。
「まぁ、待てよ。アホ……阿呆提督。そいつは俺にやらせてくれねェか?」
「うん?」
「残念ながらサシの勝負とやらは応じてやれなかったが、介錯くらいは務めてやらねェとな」
静まり返る広場。天人たちから向けられる視線を気にすることなく高杉は身動きの取れない神威の前へと立った。
「こんなオンボロ船に乗り合わせちまったのが運の尽きだったな。お互い」
「あんたと俺の行先が一緒だと?地球のケンカ師さん」
「さァな?少なくとも観光目的じゃねェのは一緒だ」
「観光だよ。地獄巡りだけど」
「クッ……フフッ……違いねぇ」
一頻り笑ったあと、高杉は腰に差していた己の刀を掴んで鞘から引き抜き、神威へとその刃を向けた。
拘束が解かれた神威は地面へと倒れ、それを見た阿呆は愉快そうに口角を上げる。
そして周囲から向けられる多数の殺気。
「せめて地獄で眠りな……オンボロ船の船員どもよ」
背後から斬りかかろうとしてきている天人へと振り返る。高杉が気づいているとは思わなかった天人は驚いてその場で固まり、高杉を殺そうと持っていた武器が振られることはなかった。その隙をついて手にしていた刀で斬り伏せる。
残りの天人も起き上がった神威によって始末されていた。
「だから言っただろ?あれは呪いの博打だって。どっちが先に死ぬかなんて言ったけど、二人一緒に死ぬつもりかい?」
背中合わせに立った神威が呆れた声で問いかける。その言葉を高杉は鼻で笑った。
「どうせ踊るならアホとより、とんでもねぇアホと踊った方が面白ェだろうよ」
「フッ……フフ……やっぱり面白いね、侍って」
「それにテメェには聞きてぇことがある」
「聞きたいこと?」
「テメェが相手にした男。そいつァ……」
「……海のこと?海なら生きてるよ。約束したからね」
「約束だ?」
「うん。俺に負けたら一晩相手にしてって」
その約束をした時のことを思い出しているのか、神威は口元を緩ませた。その顔に嫌悪感を抱き、無意識に神威へと殺気を向けていた。
「なに?君も彼にご執心なの?」
「テメェにはやらねぇ」
「でも、彼って君のものでもないよね?どうやらあの銀髪の男の恋人みたいだから」
やはりあの後にくっついてしまったのか。
海を天人の船から救い出した時に感じた違和感。銀時を見ていた海の目はもはや友人の域を越えていた。
銀時に縋るように伸ばされていた手も、銀時を見てホッと安らいでいたあの顔も。全てそういう意味だったのか。
これで銀時を心置き無く殺せる。迷う必要など何一つない。
「あのクソ天パには居なくなってもらわねェといけねぇなァ」
その為にはと高杉は目の前の天人達へと刀を振った。いつの間にか鬼兵隊の仲間たちも合流しており、周囲は乱戦状態。
周りの天人達を蹴散らしながら、高杉は脳内で何度も銀時の事を殺すイメージを浮かばせていた。
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