第166幕
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「ガハハハッ!高杉殿、よくやってくれた!これでわしに仇なす反乱分子は消えた。匂狼もその動き見事であったぞ」
「いえ、私はアホ……阿呆提督配下、十二師団団長として務めを果たしたまで。反逆者の処遇を見れば、神威についていた連中も目が覚め、提督への忠誠を新たにしましょう」
出る杭は打たれる、と言ったものか。強すぎる力は自滅を誘う。静かに二人の話に耳を傾けていた高杉は一人、ひっそりと口元を緩ませていた。
無能な上官によっては排除される優秀な部下。あの牙を研いでやればどれだけの功績を上げられるか。そんな事を考えもしない阿呆は力を付けすぎた者へと罰を下した。結果、神威はその見せしめとして処刑される。
「ちと、もったいない気もしたがな」
「うん?」
「あのガキ……ゾウさえ一瞬で混濁させる毒矢をあれ程浴びて、俺の一太刀を受けてもなお最後まで笑ってやがったな。あの手負いでそっちの手勢二十余名をやっちまうとは。ヤツを狩るための損害よりも、ヤツが抜けた損害の方が甚大な気がするねェ」
あんな戦い方をするやつは知り合いには一人しかいない。どれだけの傷を負っても戦い続ける戦闘特化の人間。
戦うことに喜びを見出し、己の壁となるものには容赦なく矛を向ける。
「アイツの血に塗れた姿は妖艶だったな」
「何か申したか?」
「なんでもねェ」
思っていた事が口に出てしまったのか、阿呆が高杉を不思議そうに見つめた。
「まぁ、よい。損害など気にならん。空いた穴はそちら鬼兵隊が埋めてくれるのだろう?」
「ハッ、悪いが遠慮させてもらうぜ。鶏口となるも牛後となるなかれってな。海賊や大幹部より、お山の大将やってた方が俺ァ気楽でいい。それに俺はこの鬼兵隊の名……捨てるわけにはいかなくてね」
高杉は草履をぺたりと鳴らしながら部屋を出ていった。
どうせ自分がいなくなった後、あの二人は己を殺す計画でも立てるだろう。
「天人ってのは打算的な考えの奴しかいねぇもんなのかねェ」
どうすれば自分が得をするか。それしか考えていない阿呆には自然と笑みが零れてしまう。あれだけアホなのによく提督なんて身分を受けているのか。
ぺたり、ぺたりと静かな廊下を一人歩く高杉の耳に入る音。地面に何かが擦り付けられている音と、狂ったように丁か半かと繰り返す女。
「丁か半か……丁か半か……」
「半だ」
牢屋に捕らわれている女の前に立ち一言呟く。
女は不気味な笑いをしながら持っていた茶碗を開けた。
「フフハハハ……残念、丁じゃ」
「ありゃりゃ、今度はあんたが死ぬ番だね」
声のした方へと目を向けると、女と同じように牢屋に捕らわれている神威。拘束具を付けられた神威は愉快そうに笑みを浮かべて高杉を見ていた。
「そいつは呪いの博打だよ。負けたヤツは必ず不幸になるのさ。俺も負けたんだから間違いない」
「フッ……殺しても死なねェ化け物がぬかしやがる」
「わざわざ手当てまでして生かしたのは、公開処刑でもして他の連中への見せしめにするためだろう?日取りはいつ?」
「3日後だ」
「3日か……俺とあんたどっちが先に死ぬかな。あんたも分かってるんじゃないかい?」
3日、と聞いて嘆くこともしない神威。そして高杉も阿呆たちの策略により命を狙われているということも知っていた。
「ここの連中はどいつもこいつも自分のことしか頭にない。どれだけ恩を売っても、利用されるだけ利用されてお払い箱さ」
「確かに。利用するにせよ、されるにせよ、こんな不甲斐ない相棒じゃつまらねぇってもんだ。こんなところにいたらせっかく生えたその立派な牙も腐り落ちちまうだろうよ」
「あんた一体、ここに何をしに?」
神威の前から立ち去ろうとした高杉に神威は声をかけた。高杉は歩を止めてゆっくりと振り向く。
「てめェと同じだよ。無様に生え残った大層な牙を突き立てる場所を探してぶらりぶらりだ。だが、こんなオンボロ船じゃどこにも行けやしねェ。どうせ乗るなら、てめェのようなヤツの船に乗ってみたかったもんだな。じゃあな、宇宙のケンカ師さん」
きっと彼の船であれば退屈な思いはしないだろう。同じように行き場を無くしたこの牙を彼となら持て余すことは無かったはずだ。
「あいつのは牙はどうなってることやら」
同じような……いや、己よりも鋭利な牙を持つ彼は。今頃どこで何をしているのか。彼の奥底に隠されてしまったモノはいつか必ず自分が掘り起こす。そしてまた彼と共に戦えたなら。
高杉は腰にある刀の柄へと手を伸ばした。毎日手入れしている刀。いつでも使えるようにしてある刀をじっと見つめてからほくそ笑んだ。
「その日が楽しみだ。海」
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