第166幕
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「宇宙ってのはどうも苦手っす」
紫煙を纏う高杉に寄り添うまた子。いくつもの星が見える宇宙を船の窓からじっと見つめた。
「あっちもそっちも真っ暗で前に進んでるんだか、後ろに行ってるんだか。分からなくなるじゃないっすか。晋助様、私たちちゃんと前に進めているんすかね。ごめんなさい、こんなこと言って……なんだか最近ちょっと不安で……」
不安げに揺れる瞳でまた子は俯いた。
きっと、ここに彼がいたならばこんな不安は無かったかもしれない。高杉と、高杉が想いを寄せる彼が居たならば。
"大丈夫だろ。心配すんなよ"
そう言って笑ってくれる気がして。
海が高杉の元から離れてから随分経った。海が離れてからというもの、高杉の動きも以前に増して荒く、見境がない。
春雨と手を組んでからはもっと酷くなった気がする。
「(海様がいれば……)」
高杉が毎日憂いを帯びた顔をしなくて済むのに。自分がこんなにも不安を抱えなくて済んだのに。
あの人を取り戻せるなら自分はどんな事でもしよう。また、海と共に笑う高杉の姿を見られるのであれば、どれだけ戦っても、傷ついても構わない。
もう一度あの光景を見るために。また子は一人、拳を握って頷いた。
「心配することはねぇ。ここに署名をすれば」
そう言って高杉はまた子にバインダーを渡す。それを見たまた子は即座に高杉から離れた、
「大江戸青少年健全育成条例改正案反対!表現を律する暇があるなら己の心を律する術を覚えよ!漫画もアニメもない時代からロリコンは存在しているんだ!向き合い、律する心を育むのが大切じゃないのか!ちなみに私はロリコンじゃない。フェミニストで~す」
高杉だと思っていた男は、高杉の格好をした武市。
また子は無言で銃を出すと、武市に向けて何発も撃ち込んだ。
「ううっ……万斉先輩、晋助様は?」
「提督に用があるとかで母艦に残ったでござる。拙者らは先に江戸へ帰れと」
先程から後ろにいた万斉に高杉の行方を聞けば、春雨の船に一人残ったとのこと。高杉程の実力者であればさほど心配することは無いだろう。それでも残る不安にまた子は目を細めた。
「用ってなんすか?」
「はてさて、見当もつかぬでござる」
「なんか嫌な予感がするっす。やっぱり春雨と手を組んだのは間違いだったんじゃないっすかね。きっと海様も反対するっすよ」
「何を今更。幕府を倒し世界を再構築する。ぬしもそれに賛同したはず。それと、桜樹はもう我らの手中にはいないでござる。あやつは元々我らの仲間ではない」
「でも……あの時は確かに居たんすよ?海様はここにいたんすよ」
寂しそうに俯いたまた子に万斉は何も言わず三味線を鳴らした。床を見つめて浮かない顔をする万斉にまた子は彼もまた海が居なくなった事に多少なりとも心残りがあるのだと察した。
「海様は……晋助様の事嫌いなんすか?」
「そんなことはないでござるよ。でなければ、桜樹は晋助に手を借りたりしないだろう」
思い出すのは今回の時のように高杉が天人の船に一人残った時のこと。
天人と武器の取引きをしていた時、ふらりと高杉は天人の船に一人残った。その理由をまた子が問い詰めても高杉は「この船を追尾しろ」とだけ残した。
暫くして戻ってきた高杉は全身血塗れ。どこか怪我をしたのではないかと駆け寄ってみれば、何故か高杉は嬉しそうに口元を緩ませていた。
後に万斉にあの時のことを聞いたら、あの船には海がいたらしい。何故船に乗っていたのかはまでは分からないが、万斉が海を見たと高杉に言った途端、高杉は一人残ると言ったらしい。
そしてあの笑み。きっと高杉は海に会えたのだろう。でも、自分の船には連れてこなかった。
「海様……」
「(しつこい、と言いたいでござるが……あれ程懐いていれば仕方なし、か)」
落ち込み続けるまた子に万斉は溜息を零す。そんな二人の元へ部下からの連絡が入った。
万斉達の乗っている船の前方に春雨の戦艦が現れた、と。
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