第166幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「高杉晋助?」
神威は出された食事を頬張りながら聞き慣れぬ名前に首を傾げた。
「知らぬか。以前、我らと盟約を交わした鬼兵隊なる武装集団の首領よ」
「もしかして地球の?」
「侍といったか。開国の折、棒切れ一本で最後まで抵抗したという蛮族の残党だ」
「へぇ~」
棒切れとは地球人が使っている刀という武器のことを言っているのだろう。
刀には多少なりとも思い出がある。海と殺りあった時に海が使っていたはずだ。
己へと向けられたあの刃は海の瞳のように鋭かった。
「(また海と殺りあいたいなぁ……今度はあの枷を外して)」
刀を振る度に狂喜を孕んでいたあの目。あの男も戦うことに悦びを感じ、強者との殺し合いをしたがっていた。
それを堰き止めていたのはあの指輪。指輪を見る度に海の瞳は揺らいで、手元を狂わせていた。戦うことを拒むように身をかわして。
海の本気を見たい。自分が海の本当の姿を引き出したい。鳳仙が海の大切なものを壊そうとした時のようなあんなものではなく。海がもつ本来の狂喜を。
「神威、貴様聞いているのか?」
「え?なんですか?」
食べる手を止めて海の事ばかり考えていたら阿呆に訝しげに見られた。神威は気にせずまた食事を再開すると、阿呆はため息をついて神威の食事を眺めた。
「少々、気にかかることがあってな。聞けばヤツら、江戸の政府を打倒せんとするテロリストという話ではないか。にも関わらず、我らが中央と密約を交わそうと江戸へ密航した折は自ら政府の犬どもを引きつける役を買って出た。何故かそなたに分かるか?」
「そりゃ簡単な話でしょ」
ごくり、と口の中に残っていたものを飲み込んで一息入れてから神威は口を開いた。
「あっちもこっちも相手を利用する関係なんですから、春雨を利用し、幕府に接近し一気に中央をたたくつもりなんでしょう」
「えっ、そうなの!?いや、その通りだ!あいつらそんな大それたことを……いや、わしも気づいてたからね。や、やっぱりそうであったか。クソ~!」
知りませんでした、と見え見えな態度にも神威は何も言わず、ただ口にものを運び続ける。こんなヤツが提督だなんて世も末では?と思いつつ、名前が"阿呆"だから仕方ないか、と内心笑った。
「ようやく豊富な資源を持つ地球を食い漁る権利を分けてもらったのに、そんなことされちゃ商売上がったりですね。まぁ、その高杉とやらが天導衆やうちの元老たちを敵に回して勝てると思いませんが、うちのメンツが丸つぶれになるのは間違いないでしょう」
「そ、そんなことになれば元老院からお叱りを受けるのはわしではないか!」
「そうですね。まっ、頑張ってください。ごちそうさまでした~」
出されていた食事を全て食べ尽くし、最後に両手を合わせて挨拶。
腹は満たされた。であればここに居る理由も阿呆の話に耳を傾ける必要も無い。神威は満足気な顔で席を立ったが、阿呆がそれを許さなかった。
「ま……待たぬか、神威!何のために貴様を呼んだと思うておる!?」
「ご飯をおごってくれたんじゃないんですか?」
「違うわ!貴様ら第七師団は組織の掃除、調整を行うのも仕事のうちであろう!」
その言葉に神威は扉へ行こうとしていた足を止めた。
阿呆は笑みを浮かべながら"使い終わった道具を片付けろ"と指示した。
.