第166幕
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「ふふふ……ふっふふ……丁か……半か……」
「じゃあ、丁」
牢屋の中で一人笑う華佗の前に現れる人影。
華佗は手にしていたお椀を持ち上げて、中にあったネジを相手に見せ、不気味に笑う華佗。
「フハハ……半じゃ」
「ありゃりゃ、負けちった」
負けた割には残念そうな雰囲気の見られない神威。阿伏兎はそんな神威を気にもせず、牢の中で笑い続ける華佗を見つめた。
「嘆かわしいねぇ。春雨第四師団団長といえば、かつては闇に咲く一輪の花なんぞと呼ばれていたもんだが、派閥争いで居場所を失い、組織の金持ち逃げしてどこに姿消しちまったのかと思ってたら……まさかこんな姿でご帰還とはね」
以前の面影のない華佗を見て哀れむ阿伏兎。美しき花もいつかは枯れる時が来る。ただ、彼女は枯れるには早すぎた。
枯れるどころか根元から折れてしまった彼女は、視点の合わない目を彷徨わせるだけ。その瞳にはもう何も映ってはいないだろう。
「ホントだね。まさか阿伏兎の好みがこういう女ギツネだったなんて」
「ヘッ、ガキには分かるまい。世の中何でも手のひらサイズ。コンパクト時代になっちまったがねぇ。女だけは手に持て余すくらいが丁度いいんだ」
「DSくらい?」
「んにゃ、メガドライブくらいだ」
「なるほど。道理で今まで探し回っても見つからないわけだ。何せ阿伏兎お気に入りのメガドライブだもんね。でも、あっちにも居場所はなかったみたいだね。博打が過ぎたね、彼女も。お前も」
華佗が逃げた先を知っていた。知っていたくせに上に報告をせずにいたのか、と遠回しに言い放った神威。
「おい、妙な勘ぐりはやめろ。どっかのバカ団長じゃねぇんだ、仕事にそんな私情持ち込んでたまるか」
「はいはい」
阿伏兎の反論に神威は意を介さず、スタスタと歩き出した。
「そもそもこいつはツラも名も変えて地球に逃げてたんだぞ。んなもん分かるわけ……」
「はいはい」
"地球"その単語で神威が思い出したのは、いつぞやの吉原での出来事。同じ夜兎族である鳳仙が地球の侍にやられたのを一人思い出していた。
「あぁ、そういえば一晩相手してもらうの忘れてたな」
「あ?なんだそりゃ」
「この間、地球に行っただろう?鳳仙に会いに。その時に面白い地球人がいたんだよ」
「鳳仙を倒したっていう銀色の侍の事か?」
「ううん。違うよ」
銀色の侍の隣に寄り添うように立っていた黒髪の男。どれだけ殴っても倒れず、神威に立ち向かってきた侍。
一方的だったとはいえ、自分に負けたら一晩相手をしてもらうという約束を無理矢理してきた。その約束を果たせぬまま、神威は地球出て宇宙にいる。
「もったいないなぁ。きっと可愛い声で鳴いてくれるのに」
「なんだ?俺が必死こいて生き長らえていたってのに、お前さんは吉原の女にうつつ抜かしてたってのか?このすっとこどっこい!」
「女じゃないよ。女みたいだったけど、あれは男だよ」
確か、名前は──
「海」
神威がポツリと海の名前を口に出した時、横を通り過ぎて行った男に殺気を向けられた。
振り返った先には派手な着物に身を包んだ男。男もまたこちらを振り返り、探るような目で神威を見ていた。
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