第165幕
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『そんで?平子はどうなったんだ?』
「さぁ?今頃、求め続けてた父親と一緒にいるんじゃねぇの?」
傷も癒えた頃、海は万事屋の表にある手すりに肘を置き、頬杖をつきながら街並みを見つめていた。
何事も無かったように流れていくかぶき町。活気溢れるこの街を長年守り続けていた男はこの街から姿を消した。
その後を追うように平子もかぶき町を離れて旅に出たらしい。
屯所で書類に忙殺されていた海が、やっとのことで出てきた頃にはもう既に二人の姿はなく、結果的にどうなったのかまでは知らなかった。
『丸く収まったのなら良かったんじゃねぇの?』
「どこが丸くだ、どこが。こちとらあんだけ手ェ貸してやったのに礼の一つも寄越さねぇんだよ、あのクソジジイ」
『ツンデレなんだろ。察してやれよ』
「ジジイのツンデレなんか可愛げもねぇよ。あれはただの頑固だろうが。歳食ってプライドだけは立派になってやんの」
『歳を取ればとるほど頑固になるって言うしな。まぁ、なんだ……諦めろ』
笑って銀時を諭すように言う海に銀時は重いため息を吐いた。
「なぁ、海」
『ん?』
『海はさ、この街好きか?』
唐突な問いに海は横目で銀時を見る。街に背を向けて、手すりに寄りかかる銀時は空を見つめていた。
『好きだよ。毎日毎日飽きもせず騒いでるこの街が。少し歩けば問題ばかり出てくるこの街が。お前がボロボロになっても必死に守り抜いたこのかぶき町が……俺にとってはかけがえのない大切な場所だよ』
「……そ、」
銀時はそれ以上何かを言うことも無く、ただ空を見上げ続けていた。
海もにこやかに街を見つめるだけ。
「海さーん!銀さーん!!」
「海ー!!ご飯食べに行くアルー!!」
呼ばれた二人は同時に声のした方へと顔を向ける。そこには二人に向けて手を振る神楽と新八。
『呼ばれてんぞ?』
「それは海もだろ?」
『まったく。二人にちゃんと昼飯作ってやらなかったのか?』
「神楽がこの間買った米全部食いやがったんだよ。ったく、これだから大食らいは」
『銀がちゃんと働けば良い話だと思うけどな?』
とんとんとんっと階段をリズミカルに降りていく海。その背中を見ながら銀時もかったるそうに階段を降りていく。
「ちゃんと仕事してますー。依頼が入ってこないだけですー」
『それは仕事してるとは言わないだろう』
踊り場で止まった海が銀時の方を振り向く。くすくすと楽しげに笑う海に銀時はむっと唇を尖らせて拗ねた。
「海くんと違って俺は仕事したくない人だから。のーんびり毎日過ごしてたいんですー」
『なら銀時はヒモってことでいいんだな?』
「……それはなんか」
男としてのプライドがなんとなく傷つく、と真顔で答える銀時に海は吹き出して笑った。
『現時点でヒモな気がするけどな?どうせ昼飯代俺持ちだろ?』
「ぐっ……!」
『いいよ。それぐらい。出してやるから』
街を守ったヒーローにはご褒美が必要だろ?と海は銀時に呟けば、銀時は少し考えてから首を横に振った。
「ご褒美貰えんなら俺はこっちの方がいい」
『は?』
ずいっと銀時の顔が近くなったと思ったら、唇に触れた柔らかいもの。至近距離で銀時の目と海の目が合った。
「俺としてはこっちの方がご褒美になるんだけど。どう?」
『……バカか』
何をされたのかを理解した海は頬を赤く染めて銀時から顔を背けた。
「な、海。もう一回。次は海からして?」
『ふざけんな。ここがどこだか分かってんのかよ!』
すぐ目の前は人が行き交う通り。周囲の目がある中でキスをしろとせがむ銀時に海は首を横に振る。
「海、」
『銀ッ……いい加減に──』
「何してるアルか、銀ちゃん」
海が銀時を押しのけて離れようともがいた瞬間、銀時の頭は定春の顔になっていた。
頭を噛み付かれた銀時は定春の口の中で騒ぎ、慌てふためいていた。
「海、こんなヤツ放って早くご飯食べに行くネ!」
『そうだな。飯食いに行こうぜ。こんなヤツ置いて』
定春に食われたままの銀時を冷たい眼差しで見つめる神楽と海。そんな二人を見つめていた新八は苦笑いを浮かべて、銀時に同情していた。
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