第164幕
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銀時たちを見送った後、海は倒れている西郷に近づいてしゃがみ込んだ。
『西郷さん、怪我は?』
「ないよ。あんなのかすり傷程度だわ。それよりアンタは?」
『ちょっと傷口が開いてきてる』
「そりゃ無理すんなって怒られるわよ」
先程の銀時とのやり取りを見られていたのか、西郷に茶化された海はそっと顔を逸らした。
「もうやんなっちゃうわ。こんなこと」
面倒くさそうに起き上がる西郷へ手を貸そうとしたが、やんわりと断られた。胡座をかいた西郷は騒いでいる町民を見て嘆いた。
「こんな小娘一人に振り回されるなんて、私もまだまだね」
気絶している平子を見てため息をつく西郷。息子を人質に取られたことに不甲斐なさを感じて、俯く西郷に海はなにか声をかけなければと口を開けたが、なんと声をかければいいか分からず、そっと口を噤んだ。
「気にしないで。これは私の独り言だから。あんたが気に病む必要なんて一欠片もないわよ」
『西郷さん……』
「そんな身体でよく頑張ったじゃない」
それで無理して傷口開いてんじゃ世話ないけどね、と笑う西郷に海は呆気に取られてからつられるように笑い返した。
「こんな茶番はもう終わりよ。私らの負けだ」
何事も無かったように立ち上がった西郷はオカマ達に声をかけて、手を引くようにと声をかける。
だが、まだ諦めきれていない平子がまだ勝負はついていないと立ち上がる。
『もうやめろ。無意味だろこんなこと』
歩き出そうとする平子の肩を掴んで引き留めようとしたが、平子の意志は強く、海の手を振り払って尚も歩こうとした。
「姐さんには分からないですよ。姐さんにはずっとそばに居てくれる人がいるじゃないですか、ずっと見ていてくれる人がいるじゃない」
寂しそうに笑う平子に海は目を大きく開く。
ずっと父親を追い求めてきた娘。自分を見てもらうために、自分の元に帰ってきてもらうために、平子はボロボロの身体を引きずってでも次郎長の元へと歩いた。
そんな平子の前へと現れる黒服の集団。平子の連れてきた手下達とは違う風貌に海は目を細めた。
集団から漂う微かな殺気。それは海達だけに向けられたものでは無いことにいち早く気づいた海と西郷。
「私らまとめてあの女ギツネにハメられたようだね」
『最初から勢力云々の戦争なんかじゃなかったってことか』
「西郷さん……姐さん……」
斬られそうになった平子を庇うように立つ海と西郷。二人の姿に平子は信じられないものを見るかのように驚愕し狼狽えた。
「無理するなって言われたばっかじゃないの?」
『アイツには黙っててくれないか?これは無理をするなどころの話じゃないからさ』
受け止めていた刀を横へと流し、よろめいた相手の腹を蹴り飛ばす。そしてまた海へと刀を振りかざそうとしてくる男へと刀を突き出した。
「口止め料、高くつくわよ?」
『それは痛いな……』
「今度ウチに遊びに来なさい。てる彦も待ってるわよ」
『そ。じゃあ、顔を出しにでも行こうかな』
「交渉成立ね」
身体に突き刺さる刀を振りほどくように西郷は男たちを投げ飛ばす。海と背中合わせになるように立った西郷はどこか楽しそうに笑った。
「光栄に思いなさい。私と共闘出来るなんて滅多にないんだから」
『一生の思い出にしておきます』
「なんなのその言い方!!私がここで死ぬみたいな言い方は!!」
『墓参りにはふんどし持っていくんで』
へらりと笑う海にイラッとしながら睨んでくる西郷。緩んだ気分を引き締めるために刀を握る手に力を込める。
『裏切り行為は局中法度に抵触する。よって、お前ら全員切腹……と言いてぇところだが、真選組じゃねぇからなぁ』
それなら簡単に斬り伏せられるのに。と呟いた海は刀を逆刃に持ち替えた。
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