第73幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
これから見回りに行くという時に前に立ちはだかる男たち。笠で顔を隠し刀に手をかけている。
「真選組副長、土方 十四郎。並びに真選組副長補佐、桜樹 海殿とお見受けする。侍でありながら天人と迎合し甘い汁をすする売国奴が!我ら攘夷の尖兵が天誅をくださん!」
『攘夷浪士か……』
本当にこいつらはどうにかならないものなのか。こんな真昼間から刀を振り回そうだなんて。こんな寂れた場所でも一般人の目がある。それを気にしない程に腐ったのか。
「海、てめぇは手を出すなよ。早速こいつのお出ましだ」
『一人でやるってんなら手は出さないけど』
大人しく身を引けば土方は海の前に出て刀の柄を握る。警察とは思えないほどの好戦的な顔で攘夷浪士を見つめる土方にため息をこぼした。
手を出すなと言ったのは土方だ。それなら黙って見ているのが筋だろう。
『あの人数くらいなら一人でもいけるか』
そんなに多くはない。確かに新しい刀の試し斬りにはもってこいの場だろう。
土方が口元を歪めながら刀を抜こうとした瞬間、勢いよく土下座した。
「すいませーーーーん!!」
一同呆然。
かくいう海も唖然。石畳の上に綺麗に土下座をしている土方に口をぽかんと開けて固まった。
『なに……やってんだよ……』
やっとこさ絞り出した言葉は途切れ途切れに紡がれる。
「すいません!命だけは……命だけは勘弁してください!草履の裏でもなんでも舐めますんで!」
『ちょ……お、おい!土方!!』
攘夷浪士に命乞いし始めた土方に慌てて駆け寄り、土方の肩に手を置いて片膝を地面についた。土方の顔を覗き込むようにみると何故か困惑顔。
土方の突然の行動に呆気に取られていた攘夷浪士が一斉に笑い始める。そりゃあ自分もそちら側だったら笑っているだろう。
『土方!お前一体何して──』
「身体が……勝手に……!」
『勝手にって……どういう……』
「おい、兄ちゃんそこどけや!」
身体が勝手にとはどういうことだ。土下座をしたのは土方の意思だろう。どうにか頭を上げさせようと手を貸す海を攘夷浪士は邪魔するように蹴り飛ばす。
倒れた拍子に左肘を地面に強くぶつけて痛みに小さく声を漏らした。
『っ……』
「海!てめぇら、いい加減に!」
「あ?鬼の副長と言われた男がこんなヘタレとはなぁ!!」
土下座をしたままで海の方を見た土方の頭を踏みつける浪士。急いで駆け寄ろうとするも、羽交い締めに拘束されて動けなくなってしまった。
『土方!!』
「ぐっ……」
「今まで散々世話になった分、きっちり返してもらおうじゃねぇか!ええ?おい、草履の裏でも舐めんだろ?舐めてみろや!!」
『てめぇらいい加減にしろ!!』
自分を羽交い締めにしている男の足を踏みつけ、瞬時に後ろを振り返って蹴り飛ばす。何人かが巻き込まれて吹き飛んでいくのを見た浪士は怯んで海から距離を空ける。
それでも掴み掛かろうとしてくる他の浪士達を一人ずつ斬り伏せて少しずつ土方へと近づいていった。
漸く見えた土方は攘夷浪士に向けて何かを差し出している。よく見れば、それは土方が使っている財布。それを差し出して必死に許しを乞う姿に目の前が真っ白になる感覚を覚えた。
.