第72幕
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「ん……あー……ダルっ」
物音で目が覚め、風邪の気だるさにぽつりと呟く。暗い部屋の中で目を凝らして見つめた天井。ぼーっとする頭の中で聞こえてくる子供のはしゃぎ声を何となく聞いていた。
「なんか、いい匂いがする」
くんくんと鼻を鳴らして匂いを辿ると、それは居間の方からだった。襖を少し開けて外を見れば、見知らぬ子供らがテーブルでホットケーキを食べているではないか。この匂いの元はあれだ。
いつもなら飛びついて自分も食べに行きたいところだが、流石に体調を崩しているとそこまでの気力は湧いてこない。
あのホットケーキを焼いたのは誰だろう。あんな美味しそうなホットケーキを新八や神楽が焼けるとは思えない。そういえば、海が家に来ていたような。
「海……」
布団から這い出でるようにして襖へと手をかける。隣の部屋から入り込む光に目を細めながら居間を覗いた。
ソファに座る依頼人の女性と、その向かいに仲良く座っている子供たち。見える範囲に海の姿はない。
「帰っ……た?」
必死に探すが、どうしても視界に捉えることが出来なかった。落胆する気持ちと海だって忙しいのだから仕方ないと無理矢理諦めようとする気持ちがぶつかりあう。
『起きちゃったのか?』
「へ?あ、え、海?」
落ち込んで俯いてしまいそうになったところに一番聞きたかった声が耳に入り勢いよく顔を上げた。そこにはタオルで手を拭いている海。襖の前で膝をついて『どうした?』と首を傾げて声をかけてくれる。
「海……海」
『なんだよ、心細いのか?』
何度も海の名前を口にすれば、苦笑いを浮かべながら銀時の頬へと伸ばされる手。ヒヤリと冷たい手に擦り寄ると優しく撫でられる。もっと、もっと触って欲しい。襖越しなんかじゃなくて、ちゃんとすぐ側で。
襖の隙間から手を伸ばして海の服を掴む。海は目を丸くしながらそれを見つめ、一瞬子供たちの方へと目をやってからのいる寝室へと入ってきた。
『この甘えため』
ぼそっと呟きながら襖を閉めて海に抱きしめられる。縋るようにその背中に腕を回して強く抱きしめ返した。
「海……いい匂いがすんな」
『さっきホットケーキ作ったからな。食欲出たら言えよ。作ってやっから』
「ん、うんと甘いのがいい」
『はいはい』
ぎゅうっと強く抱き締めて海と密着する。耳元でくすっと笑う声がして羞恥に頬を染めるが、これは仕方ないことなのだと自分を説得した。そう、仕方ないこと。風邪で人肌恋しくなってしまったのだから。今日くらい許して欲しい。
暫く海に抱きしめられた後にまた布団へと戻される。また向こうの部屋に戻ってしまう。そう思ったら一気に寂しさが胸を占めた。
『銀、寝ないと治らねぇよ?』
「わかってるけど……」
『寂しい?』
「…………べ、別にそんなんじゃねぇけどよ……なんつうかその……」
『銀時。今日は屯所に帰らずにここにいてやるから。近くにいるから、だから今は寝てろ』
そう言って微笑む海に胸がきゅうっと締め付けられる。あぁ、なんで彼はこんなにも自分が求むものをこんな軽く言ってくれるのだろうか。その言葉を聞いて安心した銀時はすんなりと意識を離した。
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