第71幕
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「これより大江戸線キン肉バスター痴漢事件の詮議を行う。被告人、長谷川 泰三。面を上げい」
ゆっくりと顔を上げる長谷川はネクタイ無しのスーツを着て神妙な面持ちで役人を見る。
こうして詮議に立ち会うのは初めてのことだ。見廻りをしている時にたまに見かけることはあっても、中に入って傍聴することまでは無かった。
知り合いが被疑者になっているから喜べたことではないけれど、詮議の場に立ち会えるのは良い経験だと思う。
「そこもと、この場でいたす証言はウソ偽りないことをこの書面に固く約束せい。以後、これに背くことあらば詮議のいかんに関わらずこれを罰す」
ゆっくりと頭を下げて長谷川は同意の意志を示す。それだけの事なのに何故かこちらがそわそわしてしまう。長谷川の一挙一動が彼の今後を決めることになると知っているから。
「あれ、海?」
背後から名前を呼ばれて振り返ると、そこには赤いメガネに暗紅色のスーツを着た銀時が立っていた。
『銀時?何しに来たんだよ』
「弁護士の代理。海こそなんでここに?長谷川さんの取り調べしてたってのは聞いたけど」
『ちょっと気になることがあってな』
「ふーん?そう?ってことは最後まで居るってことだよな?」
『まあ、一応は』
「俄然やる気出た」
『なんだそれ。そもそも弁護士の代理ってどういうことだ。お前、資格なんて持ってないだろ』
「色々とあんだよ。長谷川さんも俺が居たら安心するだろうし」
逆に不安しかないと思うと言ったら銀時はどんな顔をするんだろうか。
『俺は傍聴人側だから詮議が始まったら基本は口出し出来ないからな。困った事があっても助けられないぞ?』
「大丈夫大丈夫。なんとかなる」
その大丈夫が不安なのだ。
『とりあえずこれ渡しておくから。使えるかは知らないが』
銀時に手渡したのは調査資料。現場での聞き込みや長谷川の聴取などをまとめたものだ。
それと検事が長谷川に対して脅迫していたことのメモ。
「これ俺が使ってもいいの?」
『調査資料の方は問題ない。だが、検事の脅迫については俺が立ち聞きしてたものだから証拠としては不十分。そっちのやつは使えないと思っといた方がいいな』
ぱらぱらっと紙を捲って流し読みするが、銀時は内容を理解していないのか首を傾げる。
『本当に大丈夫なのか?なんなら代わりの弁護士を探して──』
「ねぇ、海。このメモって使っていいんだよね?」
『さっき言ったろ?それは証拠がないから使えないって』
「証拠があればいいんだろ?それなら大丈夫」
にやっと笑って銀時はウインク。検事についての情報が何かあるのだろうか。
「それにしてもすげぇ分かりやすく書いてあるじゃん」
『伊達に書類整理はやってきてない』
屯所にいるヤツらの殆どは実働部隊だ。こういう裏方の仕事が出来る人間は限られてくる。海も最初こそは書類なんて、と思っていたが、やらざるを得なくなったからやった。今ではこうして褒められることも多くなってきている。最初は簡潔すぎて意味がわからないと怒られてばっかだったのに。
「頑張ってんだな」
そう言って銀時は海の頭にぽんと手を置く。わしゃわしゃと撫でたかと思えば、長谷川の方へと歩いていった。
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