第70幕
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『これが証拠、ね』
長谷川の一週間分の調書と証拠としてあげられていた数枚の写真。現場付近にいた人が偶然撮ったものを証拠として保存してあった。
『確かにこれは普通の人には出来ないことだもんな。手馴れている犯行だと思われても仕方ないか』
慌てた表情の長谷川が女性の手を取って線路へと落ちていく写真。むしろこれは痴漢というよりも殺人未遂に入るのではないだろうか。たまたま電車が来ていなかったから良かったものの、線路に飛び込んだあとに電車が来ていたら二人とも無事では済まない。
痴漢で立件するよりも、殺人未遂で訴えた方が早かったのでは?
『いや、別に長谷川さんを有罪にしたいわけじゃないけどさ』
犯人が長谷川でなければきっと言っていただろう。とりあえず今回は見なかったことにしよう。
証拠写真のホルダーを戻し、次は調書がまとめられているノートを取り出す。
『これは話にならないな……』
開始時間と終了時間は書いてあるのだが、何について話したのかなどの内容が全く書かれていない。例え、他愛もない話をしたとしても、その話の中に痴漢をした動機などが隠されていたりする。それをあとから見つけ出すための調書なのに紙はまっさらの白紙に近い。
ここの奴らが意図的に書かなかった。もしくら書けないようなことをしたのか。最近、よく耳に入ってくる取調べの恐喝騒ぎ。自白に追い込むために岡っ引きらは暴言や暴力を行使して検挙率を上げている。
『長谷川さんがあそこまで耐えられてるってのが凄いな。意図的にやったことじゃないから否定し続けてるんだろうけど』
机の上にあった資料を片付ける。この件は後で近藤に報告するとして、今は長谷川の面会を取り付けなくては。
岡っ引きに長谷川の面会希望を出すも、今は別の人間と面会中だと言われた。相手は岡っ引きではなく検事だというではないか。
『何を言いに来たのやら』
そっと面会室へと近づいて中の方を盗み見る。
「私の裁量次第で二日後の詮議、あなたは有罪にも無罪にもなるんですよ」
検事の言葉に拳を握りしめて長谷川は押し黙る。そして長谷川に向けられる棘。過去の過ちまでほじくり返されて憔悴しきった顔で男を見つめていた。
そんな話を呆然と聞いていたら検事が面会室から出てきた。こんなところで突っ立っていたら誰だって怪しむのだが、何故かそいつは海の顔を見てからにこやかな笑みを浮かべる。
「おや、長谷川さんに面会ですか?今日は止した方がいいと思いますよ」
『検事ってのはあんな脅迫まがいな事もするのか?』
長谷川に言っていたのは事件の確認などというものではない。
『はっ、その内容が離婚しろだって?面白い冗談を言うじゃねぇか』
「真選組の方が盗み聞きとは……いただけませんね」
ぺたっと草履の音が近づき、破牙の扇子の先が海の顎を伝う。
「そんな顔は似合いませんよ。お人形はお人形らしく笑っていればいい」
『真選組が人形だなんてよく言えたもんだな。あれは大人しく座ってられる人形なんかじゃねぇよ』
「ふっ……彼らはそうかもしれませんが、貴方は違うでしょう。私には綺麗な顔をした人形にしか見えませんよ」
顎にあった扇子が首元を伝って胸の方へとなぞる。咄嗟に検事の腕を叩き落とし手錠を取り出す。
『お前も痴漢で逮捕してやろうか?』
「ご冗談を。私はこれにて失礼させていただきます」
扇子を開いて口元を隠しながら笑う顔をこれでもかというくらい睨みつけた。
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