第70幕
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『失礼します』
かちゃりと音を立ててドアノブを回す。第一取り調べ室と書かれた部屋へと入ると、そこにはサングラスをかけた男が俯いて座っていた。
『あとは俺がやりますから』
そばに居た岡っ引きに声をかけると、何故かそいつは焦りの表情。
「大丈夫ですか?なんかあったら言ってください。こいつ痴漢なので」
『それは知ってる。なんで今確認したんだよ』
「いや、痴漢なので……」
眉を下げて心配そうに見てくる岡っ引きに溜息をつき、もういいから出て行けと言って扉を閉めた。その間も犯人である男は俯いたまま黙り込んでいる。
ネガティブオーラ全開だと総悟が言っていたが、あながち間違いでは無さそうだ。これほど反省している犯人も中々居ないだろう。
これならすぐに自白するのでは?と思いつつ、備え付けられている椅子に腰掛けた。
『今日から取り調べを担当する桜樹 海だ。あんたは長谷川 泰三であってるな?』
「はい……」
『長い取り調べで心身共に疲れているだろうが耐えてくれ。話によってはすぐに終わるだろう』
「いや、大丈夫だ。あんた優しいんだな……って、あんた!!万事屋んとこのやつじゃねぇか!!」
『なんでそんなこと……』
俯いていた顔を上げてこちらを見た長谷川は驚いた顔で海を指差す。
相手は自分のことを知っているようだが、海は長谷川のことを知らない。万事屋という言葉が出てきたということは銀時と知り合いなのだろう。
「ほら!夏に海に行っただろ!」
『夏に海……まさかあの時のグラサンの?』
「そうそれ!それ、俺!」
『銀時たちの知り合いだったのか』
「そうなんだよ!なんだあんた警察官だったのか」
先程のネガティブオーラはどこへやら。見知った顔を見たせいか、元気に喋り出す長谷川に海は咳払いをした。
『知り合いと言えども取り調べで手を抜くことはしないからな。やったことについてちゃんと話してもらうぞ』
顔見知りであれば助けてくれるだろうと期待していたのか、海の一言に長谷川は肩を落として項垂れ、ここに来た時と同じどんよりとした雰囲気を醸し出す。
『痴漢をしたということで捕まっている状態ですが、長谷川さんは否認している。という状態でいいですか?』
「あれは事故なんだ!電車降りようとした足を引っ掛けちまって、転ばないように踏ん張ったら間違えて手を掴んじまって……」
『それでキン肉バスターかましたと』
岡っ引きから受け取った報告書を読みながら長谷川の言葉と照らし合わせる。疑っているわけではないが、稀に書かれている事と犯人の言っていることが食い違うことがあるのだ。冤罪防止のために確認は取らなくてはならない。
「そ、それは……」
『咄嗟のこととはいえ、長谷川さんが女性に行ったことは痴漢と同じようなことだ。それについては認めますか?』
「うっ……」
『申し訳ないがこれは歴とした痴漢行為。公然わいせつ罪として起訴される』
「そ、そんな……!」
『一応、罪を軽くするために弁護士を呼ぶことも出来るが……』
「そんな人呼べるようなやつじゃないですよ……」
『弁護士を挟めば示談にすることも可能だろう。その方が楽だと思うけど。それと……意図的にやったのではなく、これは完全な事故だと言うなら……まあ話は変わってくるのかも?』
「え……?」
自分でも無茶な話をしていると思う。これが事故で済むとは到底思えない。でも、ここまで落ち込んだ顔をされてしまっては段々と可哀想になってきてしまう。
『弁護士は雇った方がいい。少しでも罪を軽くしたいのであれば』
「わ、わかった……」
『それじゃあ今日のところはこれで取り調べを終了とする。お疲れ様、ゆっくり休むように』
「あ、ありがとな!」
取り調べ室を立ち去ろうとした海に長谷川が泣き出しそうな顔で深々と頭を下げる。
『別に礼を言われるほどでもない。これが俺の仕事なだけだよ』
ボロボロ泣きながら鼻水を啜る長谷川に苦笑いを浮かべて部屋を出る。次は証拠資料の確認をしなければ。
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