第70幕
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「海さん、ちょっといいですかい?」
『ん?どうした、総悟』
朝食を食べていた海の元へ、お盆を持った総悟が声を掛けてきた。海の前に腰を下ろし、いただきますと一言告げてから総悟は箸を取る。
「岡っ引きの方からの報告で先日、痴漢として現行犯逮捕された男が容疑を否認しまくってて話が進まないそうなんです」
『はぁ……それで?』
卵焼きを口に入れながら続きに耳を傾ける。
「これ以上の拘置は難しいので、早々にケリをつけたいって言ってきてるんです。だから、泣き落としの海さんに取調べをしてもらおうと思いまして」
『待て、泣き落としってどっから来た。それに俺が取り調べに関わるってことの意味分かってるんだろうな?』
海が取り調べをするということは相手は無事で済まないという意味になる。素直に応じない犯罪者に拷問を掛けて情報を引き出すために。
取り調べをしてほしいということは、その痴漢で捕まっている犯人はもっと他に罪状があるということになる。
「分かってやす。海さんならどんな犯罪者もすぐにゲロっちまうでしょうよ。その顔と手腕で」
『顔は余計だ。それで?痴漢以外に何やってんだそいつは』
「痴漢だけですよ?」
『は?』
「話を聞いてましたか?俺は痴漢で捕まったヤツの取り調べをしてほしいって言いやしたけど」
『……却下。そんなやつ岡っ引きに任せておけ。俺の出る幕もない』
痴漢如きでなぜ拷問しなければならないのか。それでは違法捜査になってしまう。
「その岡っ引きがお手上げだって言ってきてるんですよ。その犯人、どうやら取り調べの人間を鬱にさせてるみたいでして」
『鬱だ?何言ってんだお前は』
「ネガティブオーラ全開の取り調べになるらしく、聞いてるこっちが段々病んでくるらしいんですよ」
『そんなふざけた話があるか』
もう話を聞くのも馬鹿馬鹿しい。食べ終えた盆を持って席を立とうとした海に総悟は言い放つ。
「なんです?海さん取り調べも出来ないんですか?」
『どういう意味だそれ』
「やだなぁ。仕事なら海さんなんでもやると思ってたのに。まさか取り調べが苦手だなんて」
小馬鹿にしたような物言いの総悟にイラッとしつつ、どうせいつもの煽りだと無視を決め込む。
「次から海さんには取り調べの仕事がいかないようにしやすよ。苦手なんでしょ?」
にまにま笑いながら言う総悟の頭に無言で拳骨を落とす。
「いっ!何するんですか!」
『黙って飯食うのも出来ないのか。それにそこまでお前が仕事熱心だとは思わなかったよ。そんなに取り調べに行けって言うなら行ってきてやる。その代わり、俺の部屋にある書類は全部お前の部屋に移すからな』
「え゙」
『期限は再来週までだ。猶予はあるんだからできないことは無いだろ』
人に仕事を押し付けるのだからその代わりもあるということを覚えさせなくては。
盆を返したあと部屋に戻り、これからやる予定だった書類を総悟の部屋へと移動させる。これらの書類は平隊士には処理できないものなので、朔夜にやらせることはしないはずだ。
『たまにはこういう事もやれよクソガキ』
乱暴に書類を置いて海は屯所を出る。向かう先は拘置所。
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