第66幕
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歩く度に水溜まりが跳ねて足元を汚す。
こんな時に雨だなんて本当に神様という目に見えない存在は人間様に対して酷い仕打ちしかしないようだ。
山崎から無理矢理聞きだした場所は、如何にもここで犯罪が行われていますと言っているような雰囲気だった。
こんなところにミツバの婚約者が居るのか怪しく思える。
監察である山崎が得た情報なのであれば確かなのだろう。土方も裏が取れたから動いているはず。
『婚約したって聞いた時は嬉しかったのにな』
武州に一人取り残されたミツバはとても寂しかったに違いない。唯一の肉親である総悟も江戸に出てきてしまったのだから。
体調が悪くても誰にも頼れず、一人で孤独と戦っていた。その先に見えた幸せですら、今まさに失われようとしている。なんとか穏便に済ませたいと思っているが、これはどうにもならないだろう。
このことを総悟が知ったらどうなることか。
『自分一人で片付ければいいなんてなぁ。まったく……手のかかる副長で困る』
一人でコソコソ動き回っていたのは知っていたが、こんな事をしているなんて知らなかった。山崎に口止めしてまで隠し通す必要はなかったのに。最初から相談してくれていたならば。
『するわけないか。あの堅物が』
もし自分が土方の立場だったら。きっと同じことをするだろう。
『汚れ仕事を背負うのは自分だけでいい。そうだろ?土方』
「お前……!なんでここにいやがる」
見つけた背中に声をかけると、相手はこちらを振り返って目を見開く。
『さあ?散歩してたらこんな所まで来てたんだよ』
「だったら帰れ」
『ふらふらしてたから道が分からなくてな。こういう時に限って携帯が手元にないから困るんだよな』
へらりと笑う海に土方はうんざりした表情で舌打ちを漏らす。
「ったく……山崎を呼んでやるから屯所まで送ってもらえ」
胸ポケットから携帯を取り出して山崎を呼び出そうとする土方の腕を掴む。
「あ?てめ、なにやって──」
『これで連絡は取れなくなったな』
土方の携帯をすぱっと斬ってから刀を鞘へと戻す。呆然とした顔で携帯を見つめる土方に海はため息をついた。
『いい加減にしろよ。お前一人であの人数を相手にするのは無理だ。蔵場が雇ったであろう用心棒、そして荷を運んでいる奴らも帯刀してる。あれを一人で相手するとなると面倒だぞ』
「お前ッまさか!」
『山崎を脅して口を割らせた。中々喋らないから蹴り飛ばそうかと思ったけどな』
山崎の今後のことを考えて多少は話を盛っといた方がいいだろう。仲間内とは言えど、副長から喋るなと言われていたのに海と銀時の前で話してしまったのだから。普通に聞いただけでは山崎の信用問題になる。
山崎も土方を心配して海に話しただろうから。その点も加味して。
『一応ここに来るまでに色々と調べてきた。大分手を汚してるみたいだな』
「……帰れと言ったのが聞こえなかったか?」
『帰れ?犯罪者を前にして何言ってんだよ』
「あいつはただの犯罪者じゃねぇ。お前も知ってんだろ」
『知ってる。だからこそだろ。やられたらやり返すのは常識だろ?倍返しなんて生易しい。これから先、生きているのが辛いと思えるほどの苦痛を与えないとな』
「いや、それは流石にやりすぎじゃねぇか……?」
『何言ってんだよ。うちに手を出したんだ。それくらい当然だ』
胸を張って言えば、土方は頭を抱えてくつくつと笑い出す。
「ああもういい。そうだった。お前はそういう奴だったな」
『理解してくれたようで何よりだ。で?どうやって攻めるつもりで?』
「堂々と頭を叩くのみよ」
『大胆な戦法ですこと……って、土方それどうした?』
土方の右頬に貼ってあるガーゼ。数日前に海が殴った時は左側だったはずだ。
「……気にすんな。ちょっと子犬に噛まれただけだ」
『子犬?』
聞き返したがそれ以上怪我について話すつもりはないらしく、土方は黙ってしまった。
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