第64幕
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布団に寝かされているミツバの顔は青白く、とても生きている人間のようには見えない。
屋敷に来た医者はミツバの状態を見て険しい顔を浮かべる。先は長くないと言うように。
レストランにいた時はとても元気そうにしていたのに。ちゃんとした治療を受けているから大丈夫だと。そう言っていたのにこうなってしまった。もしかして、ミツバは分かっていたのだろうか。どれだけ治療を施してももう治らないと。
長生きするのは無理だということを。
「桜樹様、もうそろそろ旦那様がお帰りになられますので……」
『分かりました。ミツバさんをよろしくお願いします』
使用人に頭を下げて部屋を出る。
廊下を歩いている間、ミツバが倒れた瞬間のことを思い出していた。土方に驚いて彼女は発作を起こしている。吹っ切れたと思っていたがそうではないらしい。ミツバはまだ土方のことを好いているのかもしれない。
『別にその気持ちに応えなければいけないってわけじゃないが……』
土方のあの態度はあんまりではないか。
銀時たちが待機していた部屋へと来た海の視界に映った背中。
縁側でタバコを吹かしている土方にカチンと来た。土方が悪いわけじゃない。突然の事だったから驚いて身体が動かなかったのだろう。でも、以前はよくある事だった。それなのに人を呼ぶどころか動くともせず、ただ立ち止まって見ていたのだ。
一発殴らなければ気が済まない。
「おい、海。止まれ」
部屋を横切って縁側の方へと向かう海に銀時が制止の声を掛けてくる。その声を無視して、土方の肩を掴んだ。振り返った顔へと握りしめた右手を殴りつけた。
「て、てめぇ!何しやがる!!」
『お前が一番分かってるだろうが!!あのまま放っておいたらミツバさんがどうなってたことか!』
「なっ……」
『ミツバさんをころ──』
「海ストップ」
後ろからぬっと出てきた手に口を塞がれて続きの言葉は消えた。土方が視界に入らないようにと前から銀時に抱きしめられる。優しく背中を撫でられ、湧き上がった怒りが徐々に落ち着いていく。
「こいつ帰らせるわ」
「あ、あぁ」
「言っとくけど屯所に連れてかねぇからな」
「は……はぁ!?てめぇ、そいつどこに連れてく気だ!」
「ウチ」
銀時の言葉に海も反論しようとしたが、銀時に首を横に振られて何も言えなくなった。
「なに?こいつ屯所戻して、ばったり出くわした時にまた殴られたいの?」
「……っ」
「へぇ、あんたそんなにドMだったんだ?」
「違ぇ!!」
「ならウチに泊めるから。互いにそっちの方がいいんじゃないの?頭を冷やす時間が必要だと思うけどね俺は」
何も言えなくなった土方はグッと押し黙る。暫しの沈黙のあと、ボソリと勝手にしろと呟いたのが聞こえた。
「よし。じゃあ、行くか」
『強引すぎるだろ』
「このまま一緒にいてもイライラするだけだろ。お前は言うよりも手の方が早いんだよ」
『そんなことは……』
「殴る前に言ってれば多串くんちゃんと聞いたんじゃない?」
玄関で靴を出している銀時の背をぼうっと見つめる。
「海?」
『……止めてくれてありがとう』
「どういたしまして」
靴を履き、戸を開けると外には総悟が立っていた。
「海さん」
『総悟……』
「姉上のこと運んでくれたみたいで。ありがとうございやす」
『すまん。運んでやることしか出来なくて』
「いえ。海さんが居てくれて良かったです。それに……俺がやるよりも先にアイツにやってくれたみたいですし」
どうやら先程の騒ぎが聞こえていたらしく、総悟は海にぺこりと頭を下げる。
「旦那」
「あ?」
「海さんのこと頼みます」
「おう」
屋敷へと入っていく総悟を見送ったあと、銀時に手を引かれて万事屋への道を歩き始めた。
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