第64幕
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「今日は楽しかったです」
少し寂しそうに言う総悟に苦笑が漏れる。
レストランを出た後、時間が許す限りで色んなところを周った。武州の方には無い物だらけで、ミツバは物珍しそうに見ていた。
「そーちゃん、海くん。色々ありがとう」
『礼を言われるようなことはしてない。むしろこちらこそありがとう。今日は楽しかったよ』
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ」
「今日くらいウチの屯所に泊まればいいのに。なにも婚約者の家に泊まらずとも……」
唇を尖らせて拗ねる総悟にミツバは柔らかく微笑む。
「ごめんなさい。こちらでいろいろやらなければならないことがあって。坂田さんも今日はいろいろ付き合ってくれてありがとうございました」
会釈をするミツバに銀時は軽く手を振って返す。
「じゃ、姉上。ここで。先に入ってください」
中に入るまで見送ろうと声を掛けた総悟にミツバは頷く。扉に手をかけて中へ入ろうとするが、その手は扉を少し開けたところで引っ込んでしまった。
「そーちゃん……あの、あの人は……」
「野郎とは会わせねぇぜ。今朝方も何も言わずに仕事に出ていきやがった薄情な野郎でぇ」
そう言って総悟は一人屯所へと歩き出す。その背中をミツバは黙って見送る。
そんな総悟の態度に海は小さくため息を漏らした。総悟の気持ちはわからなくもない。以前は大好きな姉が取られるのではないかという不安と焦り、そして今は姉が心待ちにしていたというのに一度も顔を出さずにいる土方への怒り。
「仕事……相変わらずみたいね」
『少し忙しいかな。俺も手は貸してるんだけど……それでも手一杯で』
「海くん、あの人の補佐になったのよね。あの人は……元気?」
『元気だよ。相変わらずマヨネーズが大好きで、三色マヨネーズ丼。補佐の俺にまで食べさせようとしてくるからね』
「ふふ……海くんはなんでも食べるから」
「いや、それでも無理あるよな?あの犬の餌はよ」
『銀、慣れれば人間なんでも食えるようになる』
「無理矢理すぎない!?」
「元気そうでよかった……」
『そんなに気になるなら会いに行ってみるか?』
「え?」
『連絡してみないとわからないが、今ならもう屯所に帰ってきてるはず。呼び出せばきっと──』
来てくれると思う。と続けようとした時、目の前に一台の車が止まった。誰かが車から降りてきたのだが、車のライトが眩しくて顔が判別出来ない。
「おい!てめぇら、そこで何やってる?この屋敷の……」
「と……十四郎さ……」
車のライトを遮るように立ったのは件の人物。土方はミツバの姿を見るなりぴしりと固まる。
呼び出す必要は無かったかと思っていた海の前で、ミツバは胸元を掴んで苦しそうに咳き込み始めた。
『ミツバさん!?ミツバさんしっかり!』
倒れ込みそうになったミツバの身体を支えてその場に座り込む。
武州にいた時に何度も見た光景なので、いつものように背中を撫でて落ち着かせようとするも、ミツバの呼吸は徐々に荒くなっていく。これはいつもと違うと察して、海は立ち尽くしている土方へと叫んだ。
『土方!早く中の人を、屋敷の人を呼べ!!』
「あ……」
『土方!!!!!』
「待ってろ!今呼んでくる!」
青ざめた顔のまま動かない土方に変わって銀時が屋敷へと入り、屋敷の人たちを呼んできてくれた。
使用人に中に入るように促され、ミツバを横抱きにして門を潜る。その時ちらっと土方の方を見ると、苦しげな顔で俯いていた。
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