第63幕
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「あっ、今度は私ネ」
もうどうにでもなれという思いで海は神楽の命令を聞く。もう将軍が脱げるものといったら足袋くらいだ。むしろ足袋も脱がしてやってくれ。裸にそれだけなんて逆に恥ずかしいと思ってしまう。
「うーん、一番の奴がチャイナ服着ろヨ」
悩んだ結果、神楽は服を着させることを選んだ。誰かに与えるのではなく、その番号を持っている者が服を着る。ここまで将軍が引っかかってきたのだ。これなら漸く安心出来る。
ほっと安堵の息を吐いて海は己が引いた割り箸の番号を確認した。
「あら、私違うわ」
「私も違いますね」
「私もよ」
「私もだ」
「私も……お兄さん?」
番号を確認していくのを聞き流さながら海は冷や汗が垂れるのを感じた。隣にいるパー子が不思議そうに海の顔を覗き込んでいる。
「お兄さん……まさか」
握りしめている割り箸にパー子が手を伸ばす。見られないように割り箸を引っ込めたのだが、パー子は海から割り箸を奪うようにして取ってしまった。
「お兄さんチャイナ服決定ね」
『なんで俺なんだよ!!!!』
憐れむように見てくるパー子をキッと睨む。
「やだ、海くんがチャイナ服なの?ならおめかししなくっちゃ!」
『え、いや、お妙さん!?俺はッ──』
「将軍の命令は絶対だろ?」
ドスの効いた声で凄まれたらもう何も言えない。腕を引っ張られるがまま、海はお妙と共にスタッフルームへと連れ込まれる。
どれがいいか、これがいいかと衣装を選んでいるお妙の後ろで縮こまりながら必死にどうやって逃げ出そうかと模索していた。お妙が衣装選びに夢中になっている間に外に出れば着なくて済むのでは?と考え、そろりそろりと扉の方へと寄っていく。
「海くんはやっぱ青が似合うわよね。これにしましょ?あら……逃げようだなんて思ってないよな?」
『そ、そんなことするわけ!』
「そうよね?海くんはそんな女々しくないものね?」
逃げるタイミングを完全に失った。
お妙に手伝ってもらいながら渡されたチャイナ服へと腕を通す。何が悲しくてこんな格好をしなければならないのか。
心を無にすることでしか精神を守ることは出来ない。お妙があれやこれやとやっている間ずっと海は何も考えずに、ぼーっと天井を眺めることにした。
『こんなの誰が喜ぶって言うんだよ』
宴会のネタにも出来ないくらい酷い。お妙に言われて長い黒髪のウィッグを被せられ、ばっちりメイクも施された。自分の姿を鏡で見ると、そこには女しかいないように見えて驚いた。
お妙の腕が良すぎる。とはいえ、男が女装したところで誰が喜ぶのか。
『今年の運勢は凶だな。あとでおみくじでも引きに行ってみるか』
絶対に今なら凶、もしくは大凶を引き当てられる自信がある。
「海くーん。早く出てらっしゃーい」
外からお妙に声をかけられてドアノブに手をかける。これを捻れば外に出られるのだが、この姿を他の人間に見せる勇気はない。
「海くん。早く出てこないと……」
『い、今行く!行くから!!』
何をされるか分からない。お妙の低い声に恐れつつドアノブをゆっくり回す。カツカツとヒールの音を鳴らしながら海は将軍たちのいるソファの方へと歩く。
『こ、こんなのどこがいいんだよ……お妙さんたちが着た方がいいだろ』
こんな辱めを受けるのであれば今すぐ殺してくれと願いつつ、お妙たちの前へと出る。どうせ似合わないと笑われるに違いないと思っていたのに、海の予想と反して皆しんと静まり返っていた。
『なんだよ……』
目を合わせないように床を見ていたのだが、あまりにも反応がないので不安になってきた。そろりと顔を上げると、目の前には海の隊服を持ったパー子が真顔で立っている。
「お兄さんコレ着て。それに顔真っ赤よ。体調悪いなら無理しちゃダメじゃない。パチ恵、この人休ませるから後よろしくぅー」
「え、ちょ、パー子さん!?」
隊服の上着を頭に被せられ、海はパー子に手を引かれてスタッフルームへと逆戻り。この場を退散できるのは嬉しかったが、何故かパー子が怒っているような気がする。
『あ、あの……』
「いいから。黙ってついてきて」
何かしでかしたかと不思議に思いながら、大人しくパー子の後をついていくことしか出来なかった。
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