第55幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その後、一匹のカブトムシを巡って万事屋と真選組が争ったが結局、両者ともにカブトムシを逃がした。もはやここまで来ると何をしに来たのかも分からなくなってくる。
『これ帰ってもいいんじゃないか?一人くらい抜けてもバレないだろ』
「兄さんは無理だと思う。すぐに戻って来いって土方さんから連絡来ると思うよ」
『めんどくせぇな』
将軍のペットのせいで今日は散々な目に遭った。それは海だけでなく他の隊士たちも同じだ。こんな真夏に朝から森の中を走り回されているのだから疲労も溜まっていることだろう。そんな中で上司の奇行を見なくてはいけないのだから。
『……あいつらどこ行ったんだ』
「作戦を開始するって行ってどこかに行っちゃったよ」
土方たちは数人の隊士を連れてどこかへと向かった。今日一日動いてるのだから休めばいいものを。まあ、彼らは木に何かを塗りたくっていただけだが。
『動くなら陽があるときに動けよ。明かりもないこの時間にやったって見つからないだろ』
食事を済ませて伸びをする。明日に備えて準備をするのだというのであれば海も動かなくてはいけない。こんなこと早く終わらせて屯所に帰らなくては。どうせ書類が溜まっているのだから。
『朔夜?』
「兄さん絶対手を出すと思うからダメだよ。総悟が兄さんは連れてきちゃダメって言ってた」
『どういう意味だよ』
「休んでてって。明日も捜索するから兄さんは休ませろって言われた」
『それはアイツらも同じだろ』
休めというのであれば無理に動く必要は無い。お言葉に甘えて今は寝かせてもらおう。
『朔夜も休んどけよ。明日もきっと使いっ走りになるぞ』
「うん。そうする」
目を逸らした朔夜は何かを隠しているように見える、だが、それを聞いている余裕はない。
木に背中を任せて目を閉じる。疲れた身体は休息を望んでいて、数分もしないうちに夢の中へと入り込んだ。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
翌日、近藤がやっていたハニー大作戦というものに大半の隊士が巻き込まれた。そんな馬鹿げた作戦に参加するつもりなど毛ほども無い海は近藤に声をかけられるよりも先にカブトムシを探そうとその場を離れた。
自分は逃れられたが、森の中でさまよっている隊士たちは上司の命令に背くことなく大人しく仕方がっている。ちらほらと見えたその姿に頭を抱えた。
『お前ら断らなかったのかよ』
「でも、局長が……」
『局長がやれって言ったらなんでもやるのか。こんな作戦上手くいくはずないだろ』
上司からの命令は絶対。それは分からなくもないが、どう考えたってこれはおかしい。全身に蜂蜜を塗りたくってカブトムシを探せなんて嫌がらせでしかない。一歩間違えればパワハラだと言われかねない所業だ。
『隊士を巻き込んでやることじゃないだろこれは』
あまりにも可哀想だったので近くの川で身体を洗うように指示すると、彼らは安堵の表情で蜂蜜を洗い流す。中には既に虫に刺された者もいて、後で医者に見せるようにとも伝えて。
「海!ここにいたのか!まずいことになったぞ!」
『まずいのは最初からだろ。どうするんだよ。蜂とかに刺されてたらこいつら死ぬぞ』
「え?蜂!?何の話!?」
慌てて森から出てきた近藤に文句をぶつけると、状況を上手く呑み込めていないのか呆けた顔を晒す。
『で?そっちは何かあったのか?』
「そ、そうなんだよ!将軍様のペットが万事屋んとこの娘の頭に乗っちまって!」
まためんどくさいことになっている。
近藤が必死に指差す方では銀時が神楽の帽子を叩いている。帽子の上には確かにカブトムシが乗っていて、それは将軍が探して欲しいと頼み込んできたものと同一。
あのままではカブトムシが死ぬ。
『あのカブトムシ死んだら俺らの首も飛ぶぞ』
「止めてッ!!海止めてッ!!」
近藤の言葉を聞くよりも先に銀時たちの元へと走り寄る。振り上げようとしていた銀時の手を掴んでカブトムシにぶつかる前に止めた。幸いまだカブトムシの方は死んでおらず、羽をばたつかせてもがいていた。
「え、なに?なにごと?」
『土方!!』
「あ?あぁ……!」
今の間にカブトムシを捕獲しろと土方に声をかけたのだが、近くに来ていた近藤がすっ転んだことにより神楽の帽子に乗っかっていた瑠璃丸がコロンと転がる。
その瞬間、海の顔から血の気が引いた。
『土方、てめぇ……』
「近藤さんがあんな所で転ぶと思わねぇだろうが!」
『仕事増やしてんじゃねぇよ!いつまでこんなこと続けるつもりだ!おい、神楽!そのカブトムシは将軍の──』
まずいと気がついた時には遅かった。ハッと銀時の方を見ると、ギラついた目が海を見つめていた。
「将軍の……何?」
言うまで逃がさないとでもいうように腰を捕まれ、耳元で低く唸るように呟かれる。その声色に鳥肌が立ち本能的にこの場から逃げなければと身体が動く。
「逃がすわけないだろ?海」
『いや、これは……』
「ちゃんと説明しろ」
『……うっ』
.