第63幕
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数字と将軍と書かれた割り箸が何故か空を舞う。割り箸を持っていたはずの松平は、邪魔者と言わんばかりに遥か後方へと吹き飛ばされていた。
「あら、私が将軍だわ」
『ツインテールか』
「パー子って呼んで、お兄さん」
『パー子……さん?』
「そ。パー子」
そういえば名前聞いてなかった。いつまでも嬢と呼ぶのは気が引けるので、教えてもらった名前で呼んでみた。呼ばれたパー子は嬉しそうに微笑みながら海の頭へと手を伸ばす。わしゃりと雑に頭を撫でる感じが、どことなく誰かに似ている気がして。
「えっと、じゃ、四番引いた人は下着になってもらえます?」
「わかった」
『ぶふっ……上様!?』
すっと立ち上がったのはまさかの将軍。真顔で服を脱ごうとする将軍を慌てて止めようとしたのだが、将軍は海の言葉を無視してどんどん着物を脱いでいった。
結果、白のブリーフ姿になった将軍に海は血の気が引いていくのを感じて頭を抱える。
『こんなのバレたら殺される……』
外で警備している近藤たちにバレようものなら処罰を受けるに違いない。土方には即刻切腹を命じられそうだ。
こうなる原因を作り出した松平は未だに倒れたままで起きる気配もない。
『う、上様……いくらなんでもそのお姿では風邪を引いてしまいます。どうかお召し物を……』
着物を着せようと探すも見つからない。さっきまで手元にあったはずなのにどこに行ったんだと周囲を見渡すと、将軍の着物がはるか遠くに落ちているのが見えた。
『なんであんなところに行ってんだよ!』
「他の人達が"臭い"って言って投げてたわよ?」
『いや、臭くはないだろ……知らねぇけど』
ならば仕方ないと自分の上着を脱いで将軍の肩に掛けようと差し出したのだが、将軍は首を横に振って上着を受け取るのを拒んだ。
「下着姿になれというのが将軍からの命令だ。背くことは万死に値する」
キリッとした顔で言われて海はこめかみに青筋を浮かべる。
「お兄さん、ほら座って。お兄さんが次、将軍になったら服着させてあげればいいでしょ?」
『いや、もう全員で着させてやってくれ……』
ソファにどさりと腰を下ろして頭を抱えた海に、パー子は引き攣った笑みを浮かべる。
この状況をどうにかしなくてはと思う反面、当の本人は何故か楽しげに将軍様ゲームを続けようとしていた。民と親交を深めたがっていた将軍のことだから、きっとこれは町遊びの一つなのだと誤解しているはずだ。
将軍が変な知識をつけてしまう前に一刻も早くここから出なければ。そう思い立った時、将軍様ゲームは二回戦目へと突入し、次の将軍を勝ち取ったお妙は命令は何にしようかしら?と悩んでいた。
「うーんと……どうしよっかなぁ。じゃ、私は三番の人がこの場で1番寒そうな人に着物を貸してあげる」
固唾を呑んで見守っていると、お妙は海の視線に気づいて呟く。もう大丈夫よ、とでも言うようにお妙は海に向けてひっそりとウィンクをしてみせた。
これでもう大丈夫。そう思ったのにまさかこんなことになるなんて。
『冗談だろ……』
運が悪いとかの問題ではない。もはや裏で示し合わせたのではないかと思えるほどだ。将軍のことを唯一守っていたブリーフが別の人間の元へと旅立った。
『俺の寿命が縮むだろこれ』
「だ、大丈夫よ!だからそんな落ち込まないで?ね?」
『この状況で落ち込まないでいれたらそいつは心臓に毛が生えてるだろうな』
全裸になった将軍をどうしろと言うのだ。もうなんなら今すぐにでも攘夷浪士たちに来てもらいたい。そうすれば将軍に服を着させられるのに。
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