｢ねぇ、お兄さん｣


松平のよく分からない話を聞き流していると不意に声をかけられる。


｢お兄さんって不思議な人ね。キャバクラに来てるのに女遊びしてないじゃない｣


『まぁ……あまり興味が無いというかなんというか』


｢あら、まさかそっちの人？｣


彼女の言う"そっち"とは男色の事を言っているのだろう。


いざこうして聞かれるとなんとも言えない。男が好きなのかと言われるとそうでもないし、女が好きなのかと聞かれても返答に困る。


好きになった相手が銀時だった。ただ性別が男だったというだけだ。


｢お兄さん好きな人いるの？｣


『……いる、けど』


直球な質問に対して躊躇いがちに答える。これでどんな人かと聞かれたらどうしようか。


｢その人のどこに惚れたの？｣


『どこって……バカなところかな』


｢ば……バカ……｣


『うん。バカみたいにお人好しで、バカみたいに優しいやつ。本当に俺なんかにはもったいない』


銀時は優しすぎる気がする。心配して掛けてくれた言葉を突っぱねてしまったのに、それでも助けてくれる。もう呆れられてしまったかと思ったのに。


『俺の事よりもっと他の奴を大切にすればいいのに。こんな天邪鬼なヤツ相手してないで──』


｢大好きだからじゃない？｣


『え？』


｢えっと……その人のことはよく分からないけど、多分きっと貴方のこと大好きだから気にかけてるんじゃない？｣


照れくさそうな顔で嬢は天井を見上げる。


｢嫌いだったら相手しないと思うのよ。だってそんな人のために一々気をつかっていられないでしょ？でも、大好きな人だったらどれだけ突っぱねられても側に居たいし守ってあげたくなるじゃない｣


貴方もそうでしょ？と聞かれて思わず頷いてしまった。


｢好きになるってそういうことなのよ。損得勘定抜きで相手のことしか考えられなくなっちゃうもんなの｣


『やけに詳しいな』


｢バカにしないでよね。これでもキャバ嬢なんだから｣


『色んな経験してるってことか。君も大変なんだな』


キャバ嬢ともあれば色んなタイプの男を相手してきただろう。客の男と恋仲になることもあったはずだ。そんな中で学んできたもの。それがあるからこうして海にアドバイスしてくれている。


『じゃあ、嫌われてない……よな』


｢心配しなくても大丈夫よ。嫌ってないから｣


ぽん、と頭の上に手が乗る。励ますように頭を撫でられて少しずつ不安が溶けていく。


『なんか……似てるな』


｢は、はい！？｣


『似てる。髪色もそうだけど、なんとなく性格が』


｢な、ナンノコトデショウカ？｣


ずいっと顎をしゃくれさせて嬢は海から顔を逸らす。


『まあこんなところにいることバレたらなんて言われるか分かんねぇし。それにまだ会わせる顔が無い』


｢会わせる顔？｣


『今喧嘩……というかなんというか。ちょっと距離置いてるから。会ってもまた変なこと言いそうだし』


会ったら会ったでまた余計なことを口走りそうだ。これ以上銀時を傷つけたくない。この間だって突き放してしまったとき泣きそうな顔をしていたのだから。


｢わからないわよ？案外ケロッとしてるかも。むしろ会いたいと思ってるかもしれないじゃない｣


『そんな事ないだろ。人の気も知らないでってキレられそうなんだけど』


｢それはちゃんと受け入れてさ。そうすれば仲直り出来るんじゃない？｣


『わかんねぇよ……』


｢分かるわよ。だって──｣


｢海ィ、将軍様ゲームやるぞ｣


松平の声で嬢の言葉が遮られる。何を言いたかったのかを聞きたかったけど、その先の言葉を知ることは出来なかった。


｢ゲームですって｣


『ああ……』


嬢に促されるまま松平の説明を聞く。嬉々として松平が話していたけれど、その話は全て右から左へと流れていった。



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