第63幕
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スナックすまいる。
その店の前にいくつもの戦車を用意し、隊士を総動員して辺りを囲う。怪しい人物は見つけ次第報告するようにと部下に声をかければ、元気に返事をして散っていく。その姿を見送ってから海は土方へと向き直った。
『なんだって上様がキャバクラに……』
「まったくだ。遊ぶならもっと別の場所を選べっての」
『はぁ……どうせ松平さんが決めたんだろ』
「あぁ」
予想していたとはいえそのまんまの答えが返ってきて気分が落ち込む。松平が関わるとろくなことが起きない。それは最近身をもって知ったことだ。
前回のゴリラ騒動から日はまだ浅いというのに今度は将軍を連れてキャバクラに遊びに行くから護衛をしろとの命令。
命令されたからには従わなければならないのだが、キャバクラの周りを武装で固めるなんてアホすぎる。周りに対してここに将軍が居ると教えているようなものだ。過剰な警戒は逆に狙われやすくなるというのに。
『裏は固めたのか?』
「今、近藤さんが配置してる。俺たちは表の通りの警備だ。気を抜くんじゃねぇぞ」
『気を抜こうにも抜けないだろこんな状況。少数精鋭で警備に当たるならまだしも、こんなゾロゾロと集まってたら何事かと思われるだろうが』
「文句言ってんじゃねぇ。これも仕事だ」
『言われたからってなんでも素直に引き受けることはないだろ。間違ってることは間違ってるって言わねぇと一生気づかねぇよ』
「それは近藤さんに言え。あの人が引き受けたんだからよ」
『言っても聞かないだろあのゴリラ』
「ゴリラはもうやめろ」
ゲッソリとした顔で土方は頭を抱える。
ゴリラ王女との披露宴のあと土方は松平に言われて婚約解消の処理に追われていた。近藤がお妙のところにストーカーしに行っている間、土方はゴリラ王女の元へと出向いて頭を下げていたのだ。言葉の通じないゴリラにやたらと詰められた土方は屯所に戻ってきたとき死にそうな顔をしていた。
それがトラウマになっているのかゴリラと聞くと顔を真っ青にして離れていく。
「ここは頼んだからな。俺は近藤さんのところに報告にしてくる」
『了解』
土方の背を見送ってから海は右肩をぐるりと回す。
固定していた装具は外され今は自由に動かせる。少しばかり違和感はあるが、それももう少ししたら無くなるだろう。
今の問題は肩ではなく刀だ。
柳生家で折れてしまった刀は今鍛冶屋で直してもらっている。海の刀は特殊で直してもらうのに結構な時間を要するのだ。その間は近藤から渡された刀を使っていたがこれがまた使いづらい。
普通の刀なんて随分と使っていなかったからとても重く感じ、いつもより振りが遅くなってしまう。攘夷浪士を相手にする分ならまだ大丈夫だが、それより格上の人間が出てきたらこの刀は海の足を引っ張る恐れがある。
これなら肉弾戦に持ち込んで相手を殴り倒した方がはやそうだ。
『早く直らねぇかな……』
「おーい。海」
近藤から受け取った刀を眺めていると松平に声をかけられた。声の方には松平と将軍である徳川茂茂。
『松平さん。お疲れ様です』
「悪いねぇ。こんなに護衛つけてもらっちゃってよォ」
『何言ってるんですか。松平さんと上様をお守りするのにこれくらいは当たり前ですよ』
「そうかァ。あぁ、海くんよ」
『なんですか?』
「この間の約束、覚えてるか?」
『約束……ですか』
嫌な予感しかない。松平との約束と言えば、瑠璃丸の時に無理矢理させられたものだ。
「桜樹」
松平の隣で黙って話を聞いていた将軍が口を開く。
「今日は友として私と遊んで欲しい」
「ということだ。海、ちょっと付き合え」
『付き合えって……えっ、まさか……』
「そのまさかだ。なに心配はいらねぇ。かわいこちゃん頼んどいたからよ」
可愛いとか可愛くないとかの問題ではない。自分は警備をするためにここに来たのだ。松平と将軍の訳の分からない遊びに嫌々付き合っているというのにそれ以上のことをしろというのか。
助けを求めるように土方と近藤の方を見たが、二人は申し訳なさそうに首を振るだけ。
「(悪い!無理だ!)」
「(諦めろ。これも仕事だ。うん)」
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