第61幕
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柳生家を出てから暫く無言が続いた。その間、海は屯所に帰ったら何から終わらせようかと考え込んでいて、銀時が何度も振り返っていた事に気づかなかった。
「お前、俺と離れてる間アレどうやって抑えてたんだ」
『アレ?』
「一人じゃ止められないだろ」
銀時の言う"アレ"とは先程の海の事を示しているであろう。柳生との間で豹変してしまった時のことを。
『多分、起きてない』
「は?起きてないってどういう事だ」
『真選組に入ってから……いや、近藤さんの所に居座るようになってからはあの状態にはなってない……と思う』
確証は無い。あの状態になってしまうと記憶が混濁してしまうから。その時の感情に任せて刀を振り続ける。大抵は周りの敵が居なくなったあとに目が覚める。その間のことはよく覚えていないのがほとんどだ。
あの状態に陥った海を止められるのは銀時くらいだ。晋助や桂も止めることは出来るだろうけど、互いにボロボロになる恐れがある。その点、銀時は何故かいつも争うことなく止めてくれた。
「それなら……いいけど」
『一つ聞きたいんだけど』
「あ?なに?」
『なんで銀はいつも抑えられるんだよ。晋助も桂もお手上げだったのに』
「そりゃ……愛の力で?」
『ふざけてないでちゃんと答えろ』
「ふざけてなんかいねぇよ。本当のことだし」
立ち止まってこちらを振り返った銀時は真面目な顔で答える。そんな返事に納得いくわけもない海はムッとしかめっ面を浮かべた。
『止める方法があるなら教えてくれ。これからは自分でなんとかするし、土方や近藤さんに伝えておけばなんとかなるだろ』
「それは無理じゃね?」
『は?』
「やってみなきゃ分かんねぇけど……多分無理じゃない?」
『なんでそう言い切れるんだよ』
「暴走してる海相手に身構えることなく近づかなきゃいけないから」
『それ……って』
言っている意味がよく分からず固まる。身構えることなく近づくとはどういう事だ。そんな事をすれば確実に海は銀時を斬り伏せている。自分に近づくものは皆敵だと思っているから。
「少しでもお前に対して警戒すれば刀振られるからよ。だから何も考えずに近づいてる。そうすれば手の届く距離まで行けんだよ。刀持ってる手を掴めればこっちのもん」
『いつもそうやって止めてたのか……』
「最初の頃は力任せにやってたけどな。いつだったかは忘れたけど、無防備な状態で近づけば海気づかねぇんだよ」
まさかそんな止め方をしていたなんて知らなかった。
それは無理な話だ。武器を持っている相手に警戒をしないなんて。いくら親しくても無防備な状態で近づくのは危なすぎる。
『もし……もし俺が銀時を斬ってたら──』
「斬らねぇよ」
『え……』
「さっきの方法で近づけば海は斬らない。今までだって斬られたことねぇから」
そう言った目は真っ直ぐ海の事を見ていた。絶対的信用があるとでも言いたげな目で。
「一番は海が刀を捨てることだけどな」
『それは無理だ』
「なんで?このご時世もう必要ないだろ」
『真選組に居る間は刀は必要になる。それに……』
手放すことなんて考えたこともない。そう言い返したら銀時は酷く悲しそうな顔を浮かべた。
「誰かに止めてもらうことを考えるくらいだったらそうならないようにした方が早いんじゃねぇの?俺が近くにいるなら止めてやれるけど、もし居なかったらお前あのままなんだからね?さっきだって危なかっただろうが」
あの場に銀時が居なかったら確実に柳生を手にかけていた。お妙や新八に声をかけられたくらいじゃ止まらなかったはずだ。近藤や土方が止めに入っていたらきっと海は敵対行動と見なして二人のことを巻き込んでいたかもしれない。
でも、それでも。
『……捨てるなんて考えられない』
これは身を守る術だ。そして誰かを守るための矛。それを失うことが怖い。
自分にはこれしかないから。
「そんなに大切かよ。そんなもんなくたって生きていけるだろ」
『守る為にはこれが必要なんだよ』
「守るって何を」
『自分の身も。銀時のことも』
「……別に俺は守られなくたって」
『必要ないって?ああ、お前は強いもんな。自分の身くらい自分で守れるか』
「そういう意味じゃ……」
突き放されてしまったような気分だ。銀時はそういう意味で言ってないと言うが、海はそう思ってしまった。
自分の力は必要とされていないと。そう言われているようで。
『帰れ。病院には一人で行くから』
「海!話聞けって!」
『必要ないだろ?』
「そんなこと言ってねぇだろ!」
『そう言ってるように聞こえる。さっきの話は全部忘れてくれ』
「海!!」
銀時の手を振り払って一人で歩き出す。何度も呼び止められたけどその声を無視した。今は話をしたくない。
『いらないなら最初からいらないって言えよ』
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