第61幕
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やっとの思いで女中の追っ手を振り払って屋敷へと戻ってきたときに聞こえた声。どさりと何か重いものを地面に落とした柳生はその場に居たものらを鼻で笑った。
「男だ女だとつまらん枠に囚われる君たちに僕は倒せんよ。この男を見ろ、僕を女と知るや途端に剣が鈍った。そんな脆弱な魂で大切なものが守れるのか?」
茂みから顔を出した海の目に一番に映ったのは倒れている土方の姿。どうやら柳生が女だと知って手を抜いてしまったらしい。
犯罪者であれば容赦なく斬れただろうが、今回は決闘だ。未来ある彼女を傷ものにしたとなれば償いきれないだろう。
『期待はずれだったみたいだな。それは悪い事をした』
「貴様……!」
「海さん!無事だったんですね!」
『おう。こっちに戻ってくるまでちょっと大変だったけどな』
「ああ……何となく分かりました。また迷子に──」
『何か言ったか?』
「い、いえ……」
余計なことを言われる前に新八の言葉を遮る。不思議そうな顔をしているお妙の横で新八は口元を引き攣らせながら海から目を逸らした。
「幕府に仕えている真選組ともあろう者がこんな弱いとは知らなかった。所詮田舎侍と言ったところか」
『田舎侍?お前笑える立場じゃないだろ。誰だ?数日前に二回も防がれた奴は。セレブだお貴族だと持て囃され、稀代の天才だと言われて自分は誰よりも強いと思い上がってるんじゃないのか?』
「き……貴様ァァァ!!」
土方をバカにされた分、柳生をおちょくる。少し言い返すだけで良かったのだが、倒れている土方の姿を見てしまうと沸々と怒りが湧き上がった。
『少し煽られただけで憤慨するなんて精神的にはまだ子供なんだな。ああ……"ガキ"だったか』
「ちょ、海さん!何言って……!」
「……殺す。貴様はここで殺す!」
持っていた木刀を放り投げ、柳生は刀を手にして海に斬りかかってくる。怒りに我を忘れて突っ込んできたもんだから剣筋はブレているし隙も多い。
『ここの奴らは忘れっぽい奴が多いのか?俺は皿持ちじゃないって言っただろ』
「黙れ!貴様だけはここで潰す!」
『殺意だけは立派だな』
柳生の刀を自分の刀で受け止めながらせせら笑う。
これで柳生は海を倒すまで狙い続ける。柳生が膝をつくか、銀時の方が先に終わるか。それまで時間を稼げればいい。
『(ガラにもないことやってんな)』
新八を助けるためとはいえこんなあからさまな煽り文句を言うことになるとは。それに上手く掛かってしまった柳生に対して苦笑いしか浮かばない。
ブチ切れた様子で斬りかかってくる柳生に新八とお妙は戸惑いの表情をしている。止めたくても止める方法が見つからない。下手に手を出してしまえばお妙が危険な目にあうかもしれないと新八は心配しているのだろう。
『手を出すな。こいつの相手は俺がするから』
「で、でも……海さんは……」
『火をつけたのは俺だから。ガス抜きした後はそっちで頼む』
とはいえあまりにも導火線が短すぎた。触れられたくないところを的確に突いてしまったのか、柳生は暴走列車のように海に向けてひたすら刀を振り下ろし続けている。
『これは……後で文句言われそうだな』
上から感じる視線に怒気が混じっている気がする。余計なことをするなと怒られそうだ。
でも、この決闘を丸く収めるにはこれしかない。
そんなに不機嫌になるなら早くこの茶番を終わらせてくれ。そう思いながら柳生の剣を受け止め続けた。
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