第55幕
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「え、無理無理。俺たちカブトムシ取りに来たから」
『それは別のところで探せ』
なんで森から出なきゃいけないんだと問い詰めても返ってくる言葉は重要機密事項の為、一般人には教えられないの一言。それで帰れと言われても素直に引き下がれるわけもない。こちらは明日の食費が掛かっているのだ。
「それは無理なお願いだわ。こんな状態の海を放置しておけないし、それにうちのお嬢さんがカブトムシ取るって言ってるし」
『なんでそんなことになってんだよ。ちゃんと女の子らしい遊び方教えろよ』
「ダメダメ、こいつに何言っても聞かねぇから」
だから海の頼みは聞けないと首を横に振る。神楽や新八に甘い海ならこれ以上無理にここから追い出そうとはしないはず。そう思って言ったのだが逆にそれを利用された。
そうかと一言呟いたかと思ったら海は新八と神楽を呼び寄せて何か話し込む。神楽が一瞬不貞腐れた顔をしたが、海の一言でその顔は笑顔へと変わった。
「銀ちゃん!もうカブトムシいらないネ!」
「いらないじゃねぇよ!お前が欲しいって言うからここまで来たんだろうが!」
「海がご飯作ってくれるアル。カブトムシよりそっちの方がいいヨ」
それは同感。カブトムシなんかより海の手料理の方が何倍も魅力的だ。だけどここまで意地を張ってしまったからにはもう引けない。
「いやいやいや、銀さんは帰らないもんねー。カブトムシ取るまでは帰らないもんねー」
『銀時』
「そんな可愛い顔で見たって帰らないからな」
『銀、どうしても嫌?』
「可愛く言っても無駄だぞ」
『銀』
普段より優しげな声色で名前を呼ばれる。はちみつの甘い香りとあいまってなんだかイケナイ事をしている気分だ。
『お前が帰ってくれるって言うなら……俺も一緒についていくけど』
それでもダメなのかと問いかけられて銀時はごきゅっと喉を鳴らす。子供らが見ているのも忘れて海の頬へと手を伸ばす。
「お前が一緒に来るって言うなら……」
『ついてく。このままじゃ気持ち悪いし』
ベタつく頭を触って苦笑いを浮かべる海の首筋を蜂蜜が垂れていく。銀時の目にはそれが別のものに見えて──
「お前、こんな所で何やってるアルか!」
神楽の声が銀時の妄想をぶち破る。ハッと我に返って神楽の方を振り返ると、何かを蹴っているのが見えた。
「あれ?神楽!どうしてここにいるの?」
「朔夜もこんなところで何してるネ」
地面に転がっている奴と同じくカブトムシの被り物を着ている朔夜が茂みの中から出てくる。一体全体こいつらは何をしているんだ。
「海くん。お前らは一体何をしてるんの?」
『……ここで見たものは全て忘れろ』
低く唸るような声で呟かれて背筋がぞくりとした。先程の可愛さなど微塵にも残っていない。あるのは怒気だけ。
「(大人しく帰ってた方が良かったかこれ)」
海の言う通り一緒に帰っていればこんなことにならなかったかもしれない。そう思ったがもう遅かった。
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