第59幕
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あの一件から数日後、海の元へと新八が顔を出した。
書類整理をしていた所に山崎が現れ、新八が自分を呼んでいると声をかけられた。丁度手元の仕事が終わったタイミングだったので、新八の話を聞くべく部屋を出る。あれから一度も会っていなかったから気まずい気分だ。
柳生がお妙を連れ去ったあと、銀時と新八がボロボロの姿で駆け寄ってきた。海一人で戻ってきた事に新八は激昂し、なぜお妙を連れ戻してくれなかったのだと詰め寄られた。
──なんで姉上を行かせたんですか!
──連れ戻すのは俺の役目じゃない。
そう返した瞬間、目の前に新八の拳が迫っていた。いつもなら避けられたはずのそれは銀時の手によって止められ、新八は自分の行いに驚きつつも怒りを抑えられないという感じで海の前から逃げるように居なくなった。
銀時に事情を聞かれて説明したら話を端折りすぎだと呆れられ、新八にキレられて当然だと苦笑い。新八とは暫く会わない方がいいだろうと思い、万事屋に行かないようにしていたのにまさかあちらから会いに来るとは。
銀時から新八が万事屋に顔を出さなくなったとは聞いていた。姉が突然いなくなった上に信頼していたであろう人間から突き放されれば精神的に辛いはずだ。新八がそうなってしまったのは自分のせいだろうからどうにかしなくてはと思っていた矢先の訪問。
何を言われても反論することなく全て聞き入れようと新八の元へと向かったのだが、雰囲気的に海を責めようとしている感じでは無い。
『悪い、待たせた』
「いえ、こちらこそ突然すみません……お仕事中に声かけちゃって」
『今終わったところだから大丈夫。それよりどうしたんだ?こんな雨の中』
持ってきたタオルを新八の頭へと乗せて濡れた髪を優しく拭う。すると俯いて地面を見ていた顔がゆっくりと持ち上がり、しっかりとした目で新八は海を見据えた。
「この間は殴ろうとしてごめんなさい。姉上を九兵衛さんに連れていかれた事にしか頭になくて……」
『それは気にしなくていい。家族が連れ去られたんだから誰だって怒るだろ』
「でも、海さんに怒りをぶつけるのは間違ってました。目の前で連れていかれたのに何も出来なかった僕が悪いのに」
『相手が悪かった。これじゃ慰めにはならないかもしれないが、柳生相手じゃ難しいだろ』
新八が弱いと言っている訳では無い。毎日実家の道場で鍛錬をしている新八はかなりの努力家だ。亡くなった父親の跡を継ぐために日々精進している。
だとしても名門柳生家にはどうしても手が届かない。
巷で天才だと謳われている柳生 九兵衛に剣を向けてしまったら返り討ちにされるだろう。怪我をするだけならまだしもその命を取られかねない。
「姉上を……取り返しに行きます」
『それは柳生家に乗り込むっていうことで合ってるか?』
「……はい」
『どれだけ無謀なことかわかってて言ってるんだよな?』
「わかってます。でも、それでも行きたいんです。いえ……行かなきゃならないんです」
ぐっと傘の柄を掴む新八の顔には不安や迷いは全くない。あるのはお妙を絶対取り戻してみせるという強い意思。
『そこまで言うならわかった。ちょっと待ってて』
新八をその場に残して一度部屋へと戻る。着ていた隊服を脱いで私服へと着替え、刀を手にして部屋に戻る。
「あれ?補佐どこか行くんですか?」
『ちょっと野暮用。夜までには戻るから』
「雨降ってるので気をつけてね!」
『ん、』
山崎に少し出かけると声を掛けてから新八を連れて屯所を出る。
「海さん……」
『一人じゃ心細いだろ?』
「ありがとうございます」
『お礼を言われるほどじゃない。俺の一言で悩ませたみたいだし』
「うっ……それは……海さんは悪くないので!気にしないでください!」
『今思えば失言だった。ごめんな。俺も銀時を連れ去られてあんな事言われたらそいつのこと殴り倒して……いや、その場で斬り殺してるな』
「銀さんが連れ去られるなんて有り得るんですか……?」
『この間やられた。これでもかってくらいボコられてたよ』
思い出すのは西ノ宮がいた時のこと。あの時、銀時は人質として西ノ宮に拷問されて酷い目に合わせてしまった。
大切な人間が拉致されるのはとても辛いことだと分かっていたのに海は新八にあんなことを言ってしまったのだ。
新八を傷つけてしまった分、今回はちゃんと手を貸してやらねば。
『そういえば、お妙さんと柳生ってどういう関係なんだ?あいつは許嫁だって言ってたけど、それって親同士が決めたやつなのか?』
「九兵衛さんと姉上が幼なじみっていうのは知ってますけど、親同士の約束なのかまでは……」
『じゃあ、本人たちで決めてた。もしくは柳生の一方的なものか』
「今まで姉上は許嫁がどうのこうのなんて言ってませんでした。だからきっと九兵衛さんの一方的なものだと思います」
『片想いにしては重すぎるな。まあ……うーん』
「どうしました?」
『いや、なんでもない』
とてつもなく長い片想いをしていた人間を知っているからなんとも言えない。そう考えると柳生はどっかの誰かと似ていることになる。幼い頃からずっとたった一人を思い続けてやっと手に入る所まで来ている。
そして今、漸く望むものが手に入ろうとしている間際に邪魔をされているのだ。そりゃ怒っても仕方ないこと。
『境遇が似すぎてて何も言えないなこれ』
片想いで、同性で、邪魔が入って。まるで海と銀時のようだ。海はお妙側で銀時は柳生側。頭の中で当てはめてしまったら最後。
『銀時は気づいているのやら』
もし気づいているのだとしたら。彼はどう思っているのだろうか。出来ることなら聞きたい。自分たちはこの決闘をどう終わらせればいいのかと。
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