第58幕
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『……じゃあ俺は隣の部屋で待機してるので』
「え゙っ」
近藤とゴリラ王女に一礼して海は部屋を出る。去り際に近藤から助けを求める視線を向けられたが素知らぬ顔で近藤から目を逸らした。
申し訳ないがどうすることも出来ない。あとは頑張ってくれ一人で。
「まったく。見合いの一つや二つでグダグダ文句言ってんじゃねぇよ。そういやお前もそろそろ嫁さんもらってもいい歳だよなぁ」
隣の部屋でくつろぎながら近藤たちの様子を伺う。呆れた顔でため息を漏らしていた松平は見合いの矛先を次は海へと向けた。
『俺はまだそういうの考えてないんで。それに今は……その』
「うん?なんだ?まさかいんのか?」
『まあ一応……?』
「へぇ。お前が惚れるとは良い女なんだろうなぁ」
男だとは言わないでおこう。そんなこと言ったら今すぐ連れてこいと言われかねない。
それから暫く話をしていると隣室から戸を開ける音が聞こえた。縁側へと顔を出すと近藤がゴリラ王女を連れ立って外へと出ようとしている。
「話もそこそこに外に連れ出すなんて近藤もやるじゃねぇか」
『上手くやってるようで何よりですよ』
「だな。海ィ、ついて行ってやれ。初めての見合いだ。邪魔が入らねぇようにな」
『了解』
二人にバレることのないように静かに後を追いかける。立っている状態になるとゴリラ王女はかなり大きい。写真ではそんなに身体の大きさは感じなかった。写真を撮った者の腕が相当良かったのだろう。
このままあの王女との縁談が進んだらどうなるのか。そもそもゴリラと結婚出来るのか。下手したら飼い主とペットという図になるのでは?言わずも近藤がペットのように見えてしまうが。
先の不安を抱きつつ近藤とゴリラ王女の方へと目を向ける。
『近藤さん、ゴリラが嫌だからって殴り倒すのは流石にマズイんじゃないか?』
「やってないやってない!俺何もやってないから!ゴリラ王女の頭に瓦が降ってきたんだって!」
『そんなことあるわけ……』
そんな偶然あるわけないと言いながらゴリラ王女の頭の方を見てみると確かに割れた瓦が散乱していた。近藤の言う通りゴリラ王女は上から降ってきた瓦が頭に当たって倒れたらしい。
『なんでこんなところに瓦があるんだよ』
倒れているゴリラ王女の傍でおろおろしている近藤を横目に屋根を見上げた。
「あれ?海?」
『銀時?こんなところで何して──』
見上げた先に見えた銀髪。互いに首を傾げていたらガシッと身体が掴まれた。
「銀ちゃん!海がゴリラに食べられそうになってるヨ」
「お、おい!海!」
海の身体を掴んだのは倒れていたはずのゴリラ王女。頭を擦りながら唸っている王女は不機嫌そうだ。
『近藤さんなら意思の疎通出来るだろ!?止めてくれ!』
「え゙!?無理無理!だって俺ゴリラじゃないもん!」
『似たような顔して何言ってんだよ!』
王女を止めてくれと頼むも近藤は首を横に振って無理だと叫ぶ。その間にも身体を掴んでいる手には力が入り骨が軋む音が聞こえて冷や汗が垂れる。
『まずい……!』
「海!」
このままでは骨を折られる、というところで銀時の助けが入った。飛び蹴りを顔面に受けた王女はばたりとその場に倒れて気絶し、海を掴んでいた手からゆっくりと力が抜けていく。
「大丈夫か?」
『なんとかな。助かった』
「なんでこんなところにゴリラが二匹もいるの?ここ動物園にでも改修する予定?」
『そんなわけないだろ。ゴリラだけの動物園なんか誰が見にくんだよ』
掴まれていたせいで身体の節々が痛む。それでなくても二日酔いで頭も痛いというのに。
「お前顔色悪いけど本当に大丈夫なの?」
『昨日酒飲みすぎただけだから大丈夫』
「は?酒の飲みすぎ?まさか誰かと飲んでたわけじゃないよな?」
じとりとした目で見られる。なんでそんな顔されなくちゃいけないんだと文句をぶつけると銀時はムスッとした顔で答えろと一言。
『土方と隊士数名』
正直に答えたのに何故かため息をつかれる。そうしたいのはこちらだというのに。
「お前さ、酔っ払うと面倒くさくなるから酔うまで飲むなって言っただろ。約束したの忘れたの?」
『随分と古いものを持ち出してくるな』
攘夷戦争時に一度だけ飲酒をしたことがある。その時に銀時たちと約束したのだ。飲み過ぎには注意しろと。
「記憶を吹っ飛ばすほど飲むなって言ってんの。それと酒飲むならウチに来なさい」
『なんで銀時のところに?』
「いいから。ウチなら好きなだけ飲んでいいから。外で飲む時は量控えること。いいな?」
またしても意味のわからない約束を無理やりさせられる。理由を聞いてもはぐらかされるだけで何も教えてはくれない。
ああでもないこうでもないと言い合っている内に視界の端で王女がムクリと起き上がったのが見えた。
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