第58幕
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物音が聞こえてパチリと目を開ける。寝起きのぼうっとした頭で寝る前のことを思い出そうとしたが何も思い出せなかった。
『うん?』
自分に掛けられていた上着を手に取りながら起き上がる。畳みながら周りを見渡すがよく分からない。
『なにがあったんだ?』
少し離れたところでお妙が隊士たちを投げ飛ばしている。その後ろ姿はとても雄々しい。
なんとか宥めようと彼女に声をかけているやつもいるが、お妙の逆鱗に触れて散っていく。怒鳴っているのはわかるけど、何を言っているのかまではわからない。
『そもそもなんでここに?』
土方たちと共に屯所を出て──
「なんで私があのゴリラの嫁にならにゃいけないんだ!!」
『あ、それだ』
お妙の言葉で全てを思い出した。
近く近藤のお見合いが行われる。それを阻止するためにお妙に婚姻(仮)を頼もうと土方たちとここへ訪れたのだ。その最中に海は酔っ払って寝こけてしまった。
『この状況になってるってことは上手くいかなかったということか。土方なら上手く交渉できると思ったんだけど』
これでは近藤がゴリラと結婚させられる。それだけは海も許容出来ない。土方ではダメだったのであれば海がお妙を説得するしかない。ストーカー相手と婚姻を結んでくれなんて無理な頼み事をするのだ。
その分お礼もきちんとするつもりでいる。金銭や物であれば自分の懐から出すと決めていた。土方にはその事を話してはいないが、ことが上手く進めばなんでもいいだろう。
『下手くそ』
「ぐうぐう寝てたヤツには言われたくねぇよ」
『少し居眠りしてただけだろ。経ったの数十分でこんな事になってる方がおかしい』
「酔いつぶれてたの間違いだろうが。大体なんで俺たちがこんなことしなきゃなんねぇんだ」
『本人が直接いったら確実に息の根止められるから』
今は隊士たちの息の根が止まりかけてるところだが。
何度も投げ飛ばされては健気にお妙に頼みこもうとしている隊士らが段々と可哀想になってくる。上司のせいで散々な目に合うのはこれで二回目だ。前回の将軍のカブトムシの一件で酷い目に合ったというのに今度は近藤の嫁選びで頭を悩ませるなんて冗談じゃない。
『しょうがない。ここはどうにかする』
「おい、お前まだ酔ってるじゃねぇか。大人しくしてろ」
フラフラしながらお妙の所へ行こうとしたが、後ろからグイッと腕を引かれて椅子へと戻される。
『なんだよ。嫌なのか?』
「嫌ってなんだ。酔っぱらいがフラフラ歩いてんじゃねぇ」
『そう言って俺がお妙の所に行くの嫌なんだろ?仕方ねぇな十四郎は』
「は……はぁ!?おま、何言って……!」
『寂しがり屋だなぁ』
よしよしと頭を撫でると土方は何かを思い出したような表情をしてから渋い顔を浮かべる。
「金輪際お前は酒飲むな!」
『別にいいじゃねぇか。少しくらい』
「良くねぇ!ったく、めんどくせぇこと押し付けられてるっつうのに。お前の面倒までは見てられねぇ。今日はもう帰るぞ」
土方は海の手を取り、机に投げ飛ばされて伸びている隊士に声をかける。
『とうしろ』
「あ?」
『なんかふえてる』
いつの間にか一人増えている。笠を被ったそいつはお妙を守るようにして隊士たちの前に立っていた。
「あの女の知り合いかなんかだろ」
店員というには不釣り合いな格好。そして中性的な声のせいで男か女かも分からない。それどころか羽織の下には刀が隠されているのが見えた。
「これ以上店騒がすな。引き揚げるぞ。それからガキンチョ、お前も来い。お前、未成年だろう。こんな店に来てもいいと思ってんのか?」
「おい、貴様。今、何て言った?僕は──」
『土方』
「なッ……」
相手がこちらへと一歩踏み込んでくるのと同時に刀が引き抜かれる。土方の前へと身を滑り込むようにして向けられた刃を自分の刀の鞘で受け止めた。
「見破った……だと?」
『別に驚くほどのものでもないだろ』
尻もちをついて驚いている山崎に同意を求めるように見ると、山崎は青ざめた顔で頭を横に振った。
「い、いや俺なんも見えなかったんですけど」
『それは山崎の鍛え方が悪い』
「補佐と比べられても……」
『それより……ごめんね、お妙さん。店荒らしちゃった』
呆然としているお妙に声をかけて頭を下げ、倒れている隊士らに声をかけて叩き起す。その間にじっと自分を見つめている視線があったが無視して。
「おい、海お前……」
『かえる。もうねむい』
「酔っててもあれかよ……」
後片付けは頼んだと土方に一言残してふらりと店を出た。
『なんだかまた面倒くさそうなことが起きそうだなぁ』
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