第83幕
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ざぷんっと川の中へと落ちた銀色。
じわりと赤が広がるのを目が零れ落ちるのではと思うほど瞼を見開いて見つめた。
「あの怪我じゃ生きとらんじゃろ。諦めや」
橋にもたれ掛かりながら中村は小馬鹿にしたように海を見る。
銀時ならきっと大丈夫。いつもあれだけの怪我を負っても生きていたのだから。それに。
──待ってて。
銀時は確かにそう言った。別に迎えなんていらないのに。でも、銀時が来るというのなら。ここで待たなくては。
「そんなに見てたってあいつは見つからん。あんたも諦めの悪い男だな」
『これぐらいなら慣れてる。いつもの事だ』
そういつもの事。だから焦らなくていい。必ず銀時は戻ってくる。
『あいつは生きてる』
「鉛玉二発も受け、尚且つ斬られた男が生きてるって?そりゃバケモンだな」
『……うるさい』
「それとも生きてて欲しいっていう強がりか?」
橋の下を見つめていると中村に肩をドンッと押された。左足に体重をかけていたので軽く押されただけでも身体は簡単によろめく。倒れそうになった海を中村はまた担ぎ上げて歩き出した。
その手から逃げ出そうともがくも、右足を握りこまれて力が抜ける。
「落ち着けや。お前をどうこうしようなんて思ってねぇから安心しろ。まだ邪魔される訳にはいかねぇんだわ」
『知るか!今すぐ下ろせ!』
「大人しいやつだと思っとったが、お前さんも騒がしいやつだな。起こしたのは間違いだったか」
屋敷へと戻ってきた中村は駆け寄ってきた部下たちに状況を説明し、銀時探すようにと声をかける。
屋敷へと戻るまでの間に見つけた赤い点。等間隔に続いているものを見て胸が締め付けられた。
『(本当に……大丈夫なのか)』
地面に点々と銀時の血が続いている。橋まで必死に逃げたのだろう。時折、立ち止まったのか血溜まりもあった。
自分が眠っている間に一人で。起きていたとしても銀時の足枷になっていたかもしれない。それでも側にいれば手助けくらいは出来ていたかも。
どうして早く起きれなかったんだと自分を恨んでも過ぎてしまったことは取り返せない。
「お前にはここに居てもらう」
屋敷の地下にある部屋へと海は運ばれた。座敷牢のようなそこは埃まみれで息を吸うのも苦しい。
しかもその場所は海の記憶にある部屋と酷似していて怖気がたつ。
「全部終わったら屋敷のモンに解放させるように声かけておいてやるわ。そしたらお前さんは何も聞かずに言わずに出ていきや」
『ふざけんな。今すぐ出せ』
「それは無理な話じゃな」
こんな場所で放置されるなんて真っ平御免だ。今はまだ人がいるから耐えられるが、一人になったら闇が襲ってくる。まだあのトラウマは克服出来ていないのだから。
「明かりは付けといてやる。ホコリは……まあ我慢しいや」
『……たすかる』
「なんじゃ。お前さん暗い部屋苦手か」
思わず礼を言ってしまったせいで中村は目を丸くして驚く。
「今つけてやるから」
パチッとスイッチを押す音ともに部屋が明るくなる。それだけで澱んだ気分は幾らかマシになった。
「今すぐには出せん。ここならバレんじゃろ。薬だって完全には抜けきっておらんようだしな」
暫くは動かずにこの部屋にいろと言って中村は出ていった。きちんと座敷牢の鍵をかけて。
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