第82幕
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そばに置いておいた木刀を杖代わりにして立ち上がる。そろそろ中にいる息子と海を引きずり出さなくては。息子を待っている依頼人の元へと無理矢理にでも連れていく。もう二度と後悔しないために。
海の方も早く出してやらなければ。怪我をして辛いだろうに。丸一日蔵に閉じ込められているということはまともに食事も取れていない。燃費の悪い海じゃお腹がペコペコのはず。放っておいては可哀想だ。
「悪いが心の殻を被っていようが何だろうが、殻ごと引きずって連れていかせてもらうぜ。出てきやがれ、死にかけた親父のツラ一発ぶん殴りに行くぞ。海、そろそろ出てきなさい。いつまでもそんな所にいるんじゃありません」
蔵へと近づきながら声をかける。もうすぐで扉に手が届くというところで扉が勝手に開いた。
「あっ……開いた?」
「まったく……その扉開けさせるたぁ、大した野郎じゃ」
ゆっくりと開かれる蔵の扉。月明かりが差し込んで見えた中には床に敷かれた布団の上に座ってテレビを見ている女の姿。
そしてその横になっている海。意識が無いのか瞼は閉じられているし、両手足は頑丈にロープで縛られていた。
「海……!」
声をかけても返事は無い。起こしに行こうと蔵の中へと一歩踏み込むと、後ろからカチャリと刀の音が聞こえた。瞬時に木刀の柄の部分で刀を掴んでいる手を殴る。懐から銃を取り出した中村の腹を蹴り飛ばし距離を置いた。
そしてじくりと痛む左腕。じわあっと着流しが赤に染まる。
「おい、海!しっかりしろ!」
一先ず海を起こそうと何度も声をかけてみるも起きる気配は無い。普段ならこんなに騒がしければ目を覚ますはず。ここまで起きないとなれば薬を盛られたのかもしれない。
「まったく、腕っぷしまで一流と来やがったか。とんでもねぇのに目ぇつけられちまったな」
「てめぇ、どういうこった。これは……海に何しやがった!」
「その男には眠ってもらっただけじゃ。全て終わるまで、そこに寝かしとこうと思ったんじゃがのぅ。おじきがお前らも呼ぶとは思わんかったわ」
眠る海を見つめる中村をきつく睨む。息子は既にこの世にはいない。骨となってどこかに埋められていると笑う。
「てめぇか……」
「ああ?」
「鬱蔵をやったのはてめぇかって聞いてんだよ」
銀時の問いに一瞬動揺する。だが、すぐにその顔は不敵な笑みを浮かべた。
中村の周りに集まってくる強面集団。本当のことを知ってしまった銀時はこいつらに消されるだろう。ちらりと蔵の中にいる海を見るが依然として目覚めそうにない。
「おいおい、海くん……ちょっと手を貸して欲しいんだけどなぁ」
怪我人に手を貸してくれなんて酷な話だが、海であれば何とかしてくれそうだと思ってしまうから仕方ない。
ぐらりと視界が揺らぐ。どくりと胸が強く跳ねたかと思えば徐々に息苦しくなってくる。どうやらあの酒には何か混ぜられていたみたいだ。
この状態でこの人数を相手にするのは流石の自分でも厳しい。しかし海をここに残していくのも心配。
海は銀時のように殺されそうにはなっていない。きっと後ろ盾があるから手を出せないのだろう。警察の人間である海を殺せば後が面倒臭いことになる。でも、銀時はただのしがない万事屋。
「(一か八か……賭けてみるか……)」
海には手を出されないと信じて、銀時は蔵から飛び出る。きっと大丈夫だと何度も言い聞かせ、後ろ髪を引かれる思いで屋敷から抜け出した。
「あとで必ず迎えに行ってやっから!」
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