第81幕
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車に乗せられること数十分。立派な屋敷の前に車が止まり大きな門が開かれる。下愚蔵が先に門を潜り、石畳の上を歩いていく。下愚蔵の両サイドには組合員の男たちがみな頭を下げていた。
「ささっ、桜樹さんも」
ドアを開けられて車から出ると、その瞬間に浴びせられる殺気。随分と手厚いもてなし方だなとほくそ笑む。そっちがその気ならと睨みを効かせれば、立っていたやつらはたちまち萎縮しはじめる。
『牙を剥く相手はちゃんと見定めた方がいい』
海の言葉に下愚蔵が反応し、慌てて謝りに来た。
「すみません、血の気の多い奴らで」
『いえ、子猫に噛まれた程度なので』
ヤクザ相手に子猫呼ばわり。そんな海に下愚蔵はきょとんと瞬きを繰り返し、周りの奴らは悔しそうに歯噛みしていた。
下愚蔵の背中を追って行くと庭に面した部屋へと通された。屯所の倍くらいある庭にぽつんとある蔵。それは異様に目立っていた。
「さぁ、ここへ」
用意された座布団に座るように促されるも、海は中々腰を下ろそうとしない。下愚蔵と周りの組合員に不審に見られ、苦笑いを浮かべながら足を怪我しているのだと言うと、下愚蔵は申し訳なさそうに頭を下げて椅子を用意しろと組合員に声をかける。
『長居は出来ないんだ。上司が迎えに来るから。だから早速本題に入りたい』
椅子は必要ないと返し、下愚蔵の頼み事を聞く。
「あそこに蔵が見えるじゃろう。あの蔵の中に息子がいましてね。もう何年も顔を見ておらん。何とか息子をあの蔵から出して欲しいというのが頼みじゃ」
『蔵に居るって……原因は?息子さんが蔵の中に引きこもるに至った原因があるんじゃないのか?』
庭にある蔵はここからでも分かるほど外観が古い。中がどうなっているかは分からないが、内装もそう変わらないだろう。そんな中に篭もるなんて不衛生すぎる。でも、息子はそうせざるを得なかった。自室ではなく、鍵を掛けられる蔵に閉じこもるほどの理由があった。
「……奉公先から突然帰ってきたかと思ったら必要なものを全て蔵へと入れて篭ってしまった。理由がわからないんじゃ」
不自然な間を置いてから俯いて下愚蔵は話す。何か隠しているのは明白だ。話を聞いている組合員も顔を伏せてこちらを見ようともしない。先程まで海を警戒して一挙一動を見ていたくせに。
『原因が分からないんじゃやりようがない。まずは息子さんが蔵に篭った理由を知るべきだ』
「ワシらの話を聞こうともしないんじゃ。理由を聞こうにも息子は一言も返してくれない」
ああ、これは親子喧嘩ではないだろうか。
父親の話に耳を貸さない息子。それは典型的な喧嘩の特徴ではないか。息子が喧嘩の火種を作ったのか、それとも父親が理不尽に息子を怒ったのか。
どちらにせよこれは海が介入して事が収まる話では無い。
『(心理カウンセラーじゃねぇんだぞこっちは)』
溜息をつきたくなったのを深呼吸で誤魔化す。こんなところでため息を漏らそうものならすぐさま刺されそうだ。
『わかった。一応話はしてみる。でも期待はしないでくれ』
当たり障りない返しをしたというのに下愚蔵は目を潤ませながら何度も頭を下げる。
『(これは土方に怒られそうだな)』
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