第81幕
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自室に戻り、隊服の上着と刀を持って屯所の門へと歩く。まだゆっくりとしか歩けないが、それでも以前に比べれば良くなった方だ。そろそろ痛み止めも飲まなくて大丈夫かもしれない。
『治るのに数ヶ月掛かるって言われてたんだけどな。二週間くらいでここまで良くなるとは思わなかった』
経過観察として通院しているのだが、そこの医者も驚くほど怪我の治りが早かった。これなら一ヶ月も経たずして以前のように歩けるようになると。
きっと土方たちがリハビリに付き合ってくれたおかげだ。食堂のおばさんにも声をかけて免疫力が上がる食事にしてくれたり、怪我の治りが早くなるようにと色々手を尽くしてくれた。自分たちだってまだ包帯が取れていないのにも関わらず。
「兄さん!」
『悪い、遅くなった』
「大丈夫だよ!今日はどこまで歩けそう?」
『いつもの巡回ルートを歩いてみるか』
「大丈夫?辛くない?」
『あぁ。今日は行けそうな気がする』
「わかった。じゃあ、いつものところ回ろうか」
先を歩く朔夜のあとをゆっくりとついていく。海と共に外に出れば、いつもの時間の倍は掛かってしまう。それなのに朔夜は楽しそうに歩いている。
『(最近はこうして外に出ることもなかったからな)』
忙しかったとはいえ、朔夜のことを蔑ろにしすぎていた。これからはなるべく話をする時間を作ろう。
でなければあの男と同じようになる。そんな気がして。
見廻りの途中、町の人から声をかけられた。壁に寄りかかっている海の代わりに朔夜が対応していたのだが、その姿に随分と成長したものだなと感心していた。
以前ならおどおどして話すらまともに出来ていなかったのに。今はもう愛想を浮かべて話し込んでいる。
『子供の成長は早いとはいえ……早すぎるだろ』
知らない間に朔夜は大人になってきている。それは嬉しいものなのに。何故か寂しくもあった。
「あの……桜樹さんですか?」
朔夜を眺めていると、不意に後ろから声をかけられる。
『はい?』
「突然で申し訳ない。折り入って相談があるのですがよろしいですかな?」
振り返ってみれば背後に一台の車。後部座席から顔を出した老人は申し訳なさそうに海のことを呼んでいた。
警戒しつつも車の側へと寄り耳を傾ける。
「わしは魔死呂威組組長、魔死呂威 下愚蔵と申す。貴方は真選組副長補佐の桜樹 海どので合っておりますかな?」
『ええ、桜樹ですが……どうされましたか?』
「ここではなんですから、わしの屋敷まで来てくださいませんか?あまり口外できるものでは無いので」
『すみませんが、今仕事の途中でして。また後日、日を改めてそちらに伺うことは──』
最後まで言葉を言い終わる前に向けられた物。助手席の如何にもヤクザ顔の男がこちらに向かって小刀を向けていた。口答えせずに着いてこいと言っているように。
「手を出すんじゃない!すみません、こちらも急ぎの要件でして。町中で貴方の噂を耳にしまして、貴方なら何とかできるのではないかと頼ってみたんです」
噂、という言葉に引っ掛かりを感じる。どんな噂を聞きつけて声をかけてきたのやら。
助手席にいる男や運転席に居る男からはタダならぬ雰囲気を醸し出している。ここで断ったら後が面倒くさそうだ。
『……わかりました。上司に掛け合ってみますので少しお待ちいただけますか?』
「ええ。お願いします」
声をかけてきた老人は人あたりの良さそうな笑みを浮かべる。側に控えているお供の男たちにもその笑みを教えて欲しいものだ。
胸ポケットから携帯を出して土方へと電話をかける。
『もしもし?桜樹だけど……実は……』
土方に事情を説明したら深いため息をつかれた。当然と言えば当然だ。右足がまだ治っていないというのにまた面倒なことに巻き込まれそうになっているのだから。
許されるはずもないかと思っていたが、意外なことに土方はゴーサインを出した。
"話が終わったらすぐに電話しろ。迎えに行く"
『わかった。すぐに終わらせる』
携帯を閉じて老人に許可が取れたと声をかけると、車のドアが開いた。
乗れということなのだろうが、ドスを構えている奴の隣に乗れる気がしない。
『こちらは頼まれた側だということをお忘れのようだな?』
そう一声かければ、運転手は渋々刃物を引っ込めた。
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