第80幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
何とか立って歩けるようになってから海は伊東の墓へと訪れていた。まだしっかりと踏み込めない足を引きずるように歩きながら。
ここに来るまでに一悶着あって既に疲れている。
足を引き摺っている海に土方と総悟がついていくとしつこく言ってきたのだ。何度断わっても二人はあれやこれやと準備するものだから撒くのに苦労した。
墓参りくらい一人で行かせてくれればいいものを。
伊東の墓の前につくなり、海はふっと吹き出した。墓前に供えられている物の中にマヨネーズが紛れ込んでいたからだ。これを置かれて喜ぶのは土方くらいじゃないか。自分なら化けて出てやる。
『伊東、悪かったな。最期見てやれなくて』
左足に重心を乗せて墓の前で立つ。死んでいるやつに声をかけたって届きはしない。それでも風に乗って彼の元へ届くように言葉を紡いだ。
『いつも何考えてんのか分からなくて、腹の中の見えない不気味なやつって思ってた。参謀を担うならそれが当たり前だよな。考えてることが相手に筒抜けじゃ話しなんねぇよ』
彼は彼なりに頑張っていたのかもしれない。立ち位置的に敵を作りやすく、本心から話をできる人間もいなかっただろう。
その中でも土方に対してだけは感情を剥き出しにしていた。あの立ち聞きしていた数分間だけは彼の本当の気持ちが出ていたと信じたい。
『敵意しかなかったけどな』
伊東の墓石へと触れる。もうそこには骨だけで、伊東と話すことはもう出来ない。あの日、近藤の暗殺を企てたときに彼が何を考えていたかは分からない。
晋助とどんな取引をしたのかも。
『取引をする相手は考えた方がいい。あいつは……良くない相手だった』
伊東は身を滅ぼす結果となった。晋助と手を組んだせいかは分からないけど。
『……また来る。今度は美味い酒持ってきてやるよ。マヨネーズなんか渡されても嬉しくないだろ?』
墓に来る前に買ってきた花を墓に手向けて背を向ける。
『次会えたら……その時は腹割って話そう』
お互い隠し事もなく正直に話せたらいい。きっとその頃には自分も全て話せているはずだから。
いつかそんな日が来ることを夢見て、海は墓を後にした。
.