第80幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
窓枠に座りながら三味線を弾く。前に座っている万斉も自分と同じように三味線の音を奏でていた。
「そうかい。伊東は死に、真選組が生き残ったか」
万斉から今回のことを全て聞いた。伊東は仲間の男に斬り殺され命を絶ったと。真選組も数は減りはしたがまだ存命している。
海もまだ真選組の手の中にいる。
「存外、まだまだ幕府も丈夫じゃねぇか。いや、伊東がもろかったのか?それとも……万斉、お前が弱かったのか?」
閉じていた瞼を開けて万斉を見やる。
「もともと今回の仕事は真選組の目を幕府中央から引き離すのが目的。春雨が無事、密航し中央との密約が成ったとなれば、戦闘の必要も無し。牽制の意は果たしたでござる」
「俺は真選組を潰すつもりで行けと言ったはずだ。その混乱に乗じて海も連れてこいと」
「何事にも重要なのはノリとリズムでござる。桜樹を連れてこれなかったのは誤算だったが」
「誤算だァ?」
万斉は何かを思い出すように虚空を見つめる。
「あの目は綺麗でござったな。怒りに打ち震えて刀を握るあの姿。そしてあの一閃。流石は蒼き閃光……拙者も桜樹とまた刀を交えてみたいものでござる」
ヘリが墜落する寸前に見えた海の目。それは内なる獣が暴れ狂うように燃えていた。その瞳は狂気を孕んでいたという。そして戦いのさなかに見せた笑み。
そう語る万斉に思わず三味線を持っていた手に力がこもる。
「へぇ……まだ海の中には居るのか。それは意外だったなァ」
もう既に海の中にはないと思っていたものがまだあるのだと知って嬉しさで口角が上がる。仲間を失うことでまたアレを呼び起こしたのか、はたまたそうさせまいとしたあの銀髪のせいでそうなったのか。
原因はどうであれ、まだ海の中にはあの狂気が残っている。それが知れただけでも儲けものだ。そうでなければ面白くない。
自分が求めているのは海の狂気性なのだから。
「次会うのが楽しみだなァ、海。お前の獣は……俺が飼い慣らしてやるよ」
戦場で時折見せていた表情。容赦なく天人を斬り殺していたあの姿がまた見れる。そう思ったら歓喜で手が震えた。
「待ってろ……てめぇが誰のもんになろうが……俺がこの手でお前を捕まえてやるからよ」
.