第77幕
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「そんな人物が居たとしても黒に染まるものは染まるんですよ」
「染まっちまったもんは仕方ねぇよ。俺は何も言わねぇ。だがな、あいつは黙ってねぇよ。きっと黒をまた垢に戻すさ」
「どうですかね。桜樹は既に虫の息。放っておけばいずれは息絶えるでしょう」
「それはどういうことですか」
今まで黙っていた総悟が伊東へと声をかける。その隣には朔夜もいて、伊東をじっと睨んでいた。
「沖田君、何をやっているんですか?君は見張りのはず」
「てめぇがなにやってんだ?」
刀を手にして総悟はこちらへと歩み寄る。その瞳は怒りで染まっていた。
「てめぇが何やってんだって聞いてんだくそ野郎」
「沖田君!伊東先生になんて口を……」
一人の隊士が総悟の言葉に反応して胸ぐらを掴むが、その手を振り払った。
「その人から手を離せって言ってんだ!」
近藤の首元にある刀だけを見て総悟は歩みを進める。
「沖田君、やはり君は土方派。僕に近づきその動向を探るためのスパイ。土方を裏切ったのも僕を欺くための芝居だったか」
「芝居じゃねぇよ。言ったはずだ。俺の眼中にあるのは副長の座だけだ。邪魔なやつは誰であろうと叩き潰す。土方は消えた。次はてめぇの番だよ伊東先生」
総悟は刀の切っ先を伊東に向ける。
伊東の下にも土方の下にもつくつもりは無いと吐き捨てて。
「俺の大将は一人だ。その人がいないんだったら、副長補佐に海さんが居ないんだったら意味がねぇんでさぁ!!!」
その言葉に伊東は不敵な笑みを浮かべる。総悟と朔夜の背後には控えていた隊士たちが刀を抜いて待ち構えている。
「総悟」
「ああ、分かってる」
朔夜に声をかけられた総悟はにやりと口元を緩ませ、ポケットから取り出したスイッチをポチッと押す。途端に先頭車両から聞こえてくる爆音と列車の揺れ。立っているのも難しい揺れの中、総悟と朔夜は目配せをして動き出した。
爆発で倒れた近藤を総悟が助け起こし、朔夜は二人に斬りかかってくる隊士たちを払い除ける。
なんとか近藤を後方車両へと避難させることができ、総悟はほっと胸を撫で下ろす。
怪我はないかと朔夜に声をかけようとしたら、手にした刀を見て震えている姿が目に入った。
朔夜が斬ったのは昨日まで普通に会話していた仲間だ。なんなら一緒に任務をこなした事もある相手だったかもしれない。そんな彼らを朔夜に斬らせたのだ。
「(まだ頼むのには早かったか)」
近藤を助けるためとはいえ朔夜には重荷だっただろう。でもこうなってしまった以上泣き言を言っている暇は無い。敵だろうと仲間だろうと自分たちに刃を向けてくるのであれば斬らねばならないのだ。
でなければ自分たちが斬り殺される。
「朔夜」
「大丈夫……大丈夫だよ。僕ちゃんと……」
「朔夜」
「……なに?」
「しっかりしろ。こんな所で躊躇ってる場合じゃない」
無理を言っているのは知っている。でも、近藤を。朔夜を守るにはこれしかない。
「あの人は今頃何をしてるのやら」
海だったらこんな時なんて言うんだろうか。居ない人のことを考えたって仕方ないと思いつつ、総悟は縋るように思い浮かべた。
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