第77幕
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武州へと帰る列車の中、しんと静まりかえる隊士達。そんな中で近藤は伊東に語りかける。
「久しぶりだな武州に帰るのは。あそこは俺やトシ、総悟の生まれ育った所でね。海ともそこで会ったんだ。あいつ凄いんだぞ?空から降ってきたんだから」
「空から?」
「あぁ、あれは昨日のことのようにはっきり覚えてる。空が綺麗だと思って見上げた先に天女……いや、シータみたいに降ってきたんだよ」
「そんな夢物語みたいな話があるわけないじゃないですか」
「本当なんだって!本当に海はシータみたいに落ちてきたんだよ!」
駄々をこねるように言い張る近藤に伊東は眉を寄せて不機嫌そう顔を歪めた。
「まぁ、冗談はさておき。海とも武州で会ったんだ。あいつも何かとやんちゃでね。いつもトシと言い合ってはケンカして、間に入った総悟が海を宥めていたんだよ」
目を閉じれば昨日の事のように思い出す。あの頃はとても楽しかった。今も変わらず楽しいが、昔は煩わしい肩書きも何も無かったから。自由に羽根を伸ばしていられた。
「たまに不安になる。俺はあのころからちっとはマシになれたのかって。少しは前に進めてるのかって」
「君は立派な侍だ。僕は君ほど清廉な人物に会ったことがない。無垢ともいうのかな。君は白い布のようなものだな。何ものも受け入れ、何ものにも染まる。真選組とはきっと、その白い布にみんながそれぞれの色で思いを描いた御旗なのだろう。比べて僕の色は黒だ。何ものにも染まらないし、全てを黒く塗りつぶしてしまう。どこへ行っても黒しか残らない」
そう語る伊東はどこか寂しげで、人を寄せ付けない空気を放っている。自分は孤独なのだと思わせるような。
「私の通ったあとは全て私の色になってしまう」
「うん?」
周りに待機していたはずの隊士らが近藤へと刃を向ける。その意味がわからず首を傾げた。
「近藤さん、すまないね。君たちの御旗はもう真っ黒になってしまったんだよ」
「だーっははは!さすが先生。面白いことを言うなぁ。俺達が真っ黒に染まった?なるほど、俺が白い布だとするならば、確かにそうかもな。だが、俺なんぞはいいとこ縮れ毛だらけのふんどしってとこかな。白い御旗?そんな甘っちょろいもんじゃないさ。先生の周りにいる連中は知らんが、ヤツらは違うヤツらは色なんて呼べる代物じゃねぇ。言ってみりゃ垢だよ」
そう笑う近藤に伊東は無表情で見つめていた。隊士たちを汚れだと言い、その汚れに愛着が湧いて困っているのだと。
「まぁ、あいつに垢だなんて言われたら汚ぇって怒られるだろうけどな。あいつは俺たちの空だ。蒼く気高い優しいヤツ。どんなやつだって空みてぇにでかい心で包み込んでくれる。そんな奴がいるから俺たちは強くいられるんだ」
海ならば汚れてしまった旗を綺麗に洗い流してくれるだろう。文句を言いつつも優しい彼ならば。何度だって塗り替えてくれる。だから近藤は胸を張って立っていられた。側で支えてくれる大きな存在が常に居たから。
仲間が己を支えてくれているから。
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